展覧会の絵 3:第2プロムナード(2)

 ムソルグスキーはどうだったのだろう。友人の、グノームという絵をどこかグロテスクに表現し、次の絵へ向かう足取りはどんなものだったのだろうか。思い出に心を躍らせているのだろうか? 厳格ある、生き生きとした第一プロムナードに比べてゆったりとスローな第二プロムナード。たくさんの明るい頃を連想させていたのかもしれない。  もし、僕が同じ状況にいたら? 前向きにいられるだろうか。
「ほんとに上手いねぇ、田山」
 指揮者の小寺さんが満面の笑みを浮かべる。音楽に対しての評価が人一倍厳しく、それこそ音程とかではなく『音楽』に対する指摘の多い小寺さんが珍しく人を褒めた。先ほどまで、その賛辞に恥じない音があふれていたからだ。第二プロムナードという曲に対するものだけではなく、田山の表現するソレに対しての笑顔である。小寺さんだけではない、団員全員が彼に送る眼差し。憧れと尊敬を抱いているのが伝わってくる。
 不思議なことに、あれだけマダムに劣等感を抱いていた僕でさえ、田山に対してそのような感情を持ち合わせていなかった。どちらかといえば後輩であり同性である田山の方にこそ、そういった感情を抱くのが普通ではないかと予想してしまうのに。
『そういうのが、前向きっていうのかな』
 スポーツ選手は、誰かと競争することよりも自分との競争だという。音楽というものは誰かと比較するものではないが、田山の行動こそ本当に音を楽しむということなのかもしれない。それは……右前方でにこやかに笑っている赤池にも言えることだろうと、僕は思う。出席者の少ない弦楽器のメンバ。それでも、今ここでこうして音楽の並木道を歩んでいることは同じなのだ。
 美術館にいたような気もするが、ここは食堂だ。板張りの、まだ冷たい床。ギシギシ、と悲鳴を上げる木製の椅子。生ぬるい空気と、冷たい楽器。絵の具のようにそれぞれが持つ色は異なるが、すべてが混ざって今を作っている。
「技術的なことはこれからどうにかしていけばいい。でも、音を作るって本当に難しいことだよなぁ。俺は、何十年も指揮をしているけどやっぱりわからないよ」
 音楽は、やっぱり奥が深い。きっと、僕もわからないんだろうな……。

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