そう言ってぶつかってきたのは長い茶髪の女性だった。
高校にもなれば茶髪などさほど珍しいものではなくなるのだが、それでも目を奪われたのはその真っ直ぐな髪の毛だった。
カラーリングしていれば髪の毛は痛む。ましてや紫外線を浴びる夏においてそれは如実に現れるはずだ。姉が美容師であるゆえにそんな知識ばかり埋め込まれている和也だったが今回ばかりはその知識に感謝した。
こんなに綺麗な髪の毛の人物には滅多に出会えない。
決して髪フェチ(フェチという言葉に嫌悪を示す無かれ。人間だれしも『好み』レベルのものは持っているはず)ではなかったものの、心を打つには充分すぎた。
まるで太陽が地球に覆い被さったようなときの衝撃。彼の中でプロミネンスが発生した。
「いえっ、自分は見ての通り丈夫な体なので!」だからそんなことを言いながら、自分の胸をたたいてしまったのも今となっては仕方がないことだと思った。
プールのすみっこで、上部には監視員下部には子供の視線を感じながらそんなことを言っても仕方がないことなのだ。
しばらくの沈黙の後に茶髪の女性は笑い出した。強力な日焼け止めの効力なのか、白い肌を反射させながら、肩を震わせている。
「あ、えと……へ、変なこと言って、スミマ、セン……」会話になっていない会話がまたツボにはまったのだろう。女性は今度こそ声をかみ殺して笑い出した。うっすらと目には涙まで混じっている。通常、こんな変梃な男性に声をかけられたら不審がるはずだろう。しかし彼女はそれを疑問に感じず、ただただ笑っていた。
後に聞くと、『あんなプールに来るような人に悪い人はいません』との事らしいのだが、まぁその話は後日行うとしよう。
ともあれ、そんな些細なきっかけで、彼と彼女は出会ったのだった。
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