+ Prologue_2 +

非常に間抜けな声であったと思う。それでも少し冷静になった少女はスカートの中が丸見えという事を一瞬気にし、無意識で足を下ろした。そのまま力の作用点を失った腕は手すりを離れ、体は後ずさりする。重心の定まらない体は結局尻餅をつくように座り込むことで落ち着きを取り戻した。

対して球体はそのまま彼女の方に向かって平行移動し、歩道橋の上に少年を下ろすと光ごと消えた。それまで何とも感じなかった夜の風景はそれまでのギャップのためか非常に暗く感じられ、月明かりやその他の灯が際立つ結果となる。その中でも特に目立つのは、今彼女の目の前に現れた少年のまばゆいブロンドの髪の毛だ。

「お主、誰じゃ?」

彼は再び問うた。驚いて一切の声を出すことができなかった彼女であったが、そんなときでも働いていた視覚は目の前に佇む少年の姿をしっかりと描写してくれた。

おそらく年齢は十二歳前後であろう。日本で言えば小学校高学年か中学校にあがりたてというのがしっくりくるはずだ。『日本で言えば』という言い回しをしたのには理由があり、それはというと少年が東洋人とは思えぬ金髪と碧眼を持っていたからだ。更に言えば、真っ赤なマントが背中から垂れている上に漫画で見るような金色の王冠が頭上やや右側にちょこんと載っており、東洋の要素は微塵も感じられないことも加わる。真っ白のタイツにブルーの羽織ものとズボンも加えて、さながら童話にでてくる王子のような姿とも言えよう。

「あ、あんたこそ、誰よ」

そこまで視界がとらえたところで、ようやく彼女は口を開くことが出来た。肝が据わっているのかなんなのか、よくわからないが比較的しっかりした声だった。対して少年はその発言がどうにも気に入らなかったらしい。組んだままの右手の人差し指を立て、腕を小突いて、言った。

「む。失礼なやつだな。お主が我(われ)を呼んだのだろう。だとしたら先に名乗るのはそっちではないか」
「わ、われ……?」

……この子、いっちゃってるのかしら。

服装といい言い回しといい、普通の小学生ではないのはもはや揺るぎない事実だ。普通の小学生ないし中学生は自分のことを『我』などと呼ばないはずだ。いやまて、これは今流行のゆとり教育だったりアニメや漫画の影響を受けているのか。そう考えれば彼の服装もなんだかしっくりくるではないか。そうだ、そうに違いない。そうに決まってる。

『でなきゃ、納得がいかない……』
「なんじゃ、もしかして我がこの国の言語に堪能なことに驚いているのか。無理もない、我の姿はこの国では珍しい部類だろうからな。前にも同じように驚いた輩が、やはりお主と同様に我と初めてあったときはしばらく腰を抜かしておったぞ。全く、肝がすわっておらぬ」
『……』

残念ながら推測は外れのようだ。どうやら自身が日本に適した風貌でないことに少年自身自覚があるらしい。

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