16. Then, the cherry blossum season comes. - 3

 自分のやりたいこと。

 自分の見つけたいこと。

 何も分からないまま、何も見つからないまま、まわりだけが変わってゆき、時間が過ぎてゆく。 もどかしさ、それから、いつもの『もやもや』をいだいて、いつのまにか出会って二度目の夏が来て、秋をすごし、そうして、冬の訪れを彼女は聞いた。
 已然として『白科』であるそこへ彼女はいつものように過ごしており、学者も試験に集中してるのか、二号館へ足を運ぶことはほとんど無くなっていた。

 いろんなものが、まわりと世界とが、すこしづつ変化をしている中、女研究員はじぶんひとり取り残されている感覚でいっぱいになった、
 涙を流すこともあった。でも、それらの感情は、すべて学者の存在によってとどめられていた。
 学者の真直ぐな姿勢がずっとうらやましかった。うらやましく思うだけじゃ何も変わらないと分かっていたけど、自分には出来ないことだと思って、彼だからできると、決めていた。
 でも、そうじゃない。
 自分が一体どうしていたのか。なんとなくだけど理解ができる。

 過ぎ行く季節をそんな感情で過ごしつつ、彼女は何かを感じていた。 表現しがたい、何かの感情の芽生え。


「あ、教授」
「久しぶりだな、どうだ」
「どうも何もー、相変わらず見つかってませんし」
「そうか」
 教授はそのままはいってきて、学者の、いまはほとんど使われていない椅子に腰掛けた。 きしり、と椅子が鳴る。学者に比べ体重のおおい教授のものだから、いつも聞く音とは違う。 もの悲しさを何となく感じていた女に教授は出し抜けに聞いた。
「いつも思ってたんだが、お前はどうして研究員になったんだ?」
「……なんででしょうね、よくわかりません」
 あっけない返答だったけど、そこでふと彼女は天井を仰ぐ。 親に連れられて初めて言った研究所。そこでやっていた事。胸をわくわくさせたあのときの感動。
「あ、でも……面白そうだったから、かな」
 ちょっと戸惑いながら彼女は返した。
 よく分からないと言うのはあながち間違いではない。なんとなく試験をうけてなんとなく通過して。なんとなくでいままでやってきたので、今回も『なんとなく』が発端なのだ。 けれども、『面白そう』というのも事実であり、あの後もテレビで見た研究員の姿に憧れを抱いていた。


 そうだ。あんな風になりたかったんだ。


 すこしだけ『今』を理解する。あと少しで答えが出そうだと言うところまで考えたところで、教授が女の思考を遮った。