13. Winter, disillusionment - 2

 たまには研究室を出て、気分転換をしてみる。売店にいって、いつものようにオレンジジュースを注文。飲みながらポテトを摘み、学者のおいていった、もとい「参考になるだろ?」といってくれた本をみながら時を過ごす。
「ねえねえ、行った?こないだの講議!」
「あ、行った行った! すっごいよねー。さすが一号館から来ただけって感じ」
「そうよねー。あたし生物学専攻してたんだけど、天文学とか政治学にも興味持っちゃったもの」
 学者の話題が、どこかから聞こえた。 彼の良さがみんなに伝わるのが、何故だか自分の事のように嬉しくなって、思わず顔が綻んでしまう。 耳をそちらに傾けながら、彼女はジュースを啜った。
「背も高いし、かっこいいし。こないだね、あたし質問しに行っちゃった」
「マジで?で、何話したの??」
「世間話もしてくれたよ。ちゃめっけあるから、それが他の教授と違うってやつ?時間を忘れるくらい話しちゃったわよ。それに、教え方もやっぱ上手いの!」
「へー、今度あたしも行こうかな」
「うんうん、行く価値は抜群にあるよ」
「講義室に行けばあえるの?」
「……それがね」
 片方の声がそこで小さくなった。周囲をきょろきょろ見回しながら、相手に近付いて、こそこそと喋り出す。
「白科にいるらしいのよ」
「嘘、マジ!?」
「声がおっきい! 関係者がいたらどうすんのよ」
 途端、研究員のポテトへ向う指先が止まった。もちろん微々たるもので、それに気付いたものはいない。
『聞こえてるわよ……』
 女は自他ともに認める地獄耳だった。まして自分の関係することといったらなおさらだ。自分の話題が2つ離れた教室でいわれていても、気付くだろう。そんな彼女の様子に気付くわけもなく、彼ら2人は話を続ける。
「ほら、白科って人いないじゃない。だからその方がいいんだって」
「じゃあ、あんたあの教室はいったの?」
「ううん。講師室にいって、いなかったから探し歩いてたら廊下でばったり。聞いて吃驚したわよ」
「そりゃそうよ、だって『あの』白科だものねー」
 ジュースの中身を空にする。ついでにポテトの中身も空にした。
 話している2人に悪気なんてない。分かってる。でも、その場にいるのは苦しすぎた。
「嫌がったりしないの、彼」
「それがね、これまた聞いて吃驚したんだけど、あの講師の先生ね……」
 いつの間にか、売店から彼女は姿を消していた。