12. Ricard

 勢いで駆け出して、一体どうしたものだろう。日々の成果があるので地理には慣れている。 一歩も屋敷の外を歩いたことはありません、えーん、などというボンボンと一緒にされるわけ にはいかない。オルガリー家で雇った最高級家庭教師(ついでに美人)の教育はジュリアンを たくましく育てていた。現在のこの世界、この国の置かれた状況や、ある程度の常識もきっち り身に付いている。ついでに礼儀作法もばっちりだ。対人駆け引きなんかも学んだ。
「はずなのになぁ。あの非マニュアル女め」
 絶対俺に惚れていると思ったのに。夜に繰り出す街はジュリアンの家を知って近づいてくる ものが大半。だがその気さくな性格と明るさで同性からも人気が高く、落とした女は数知れず。 なのに、リカードは自身を優先するとかなんとかで言うことは聞いてくれなかった。
「弱ったな......これからのことはあいつ任せにするつもりだったのに」
「勝手に決めないでよ大バカもの」
 河原でぼーっとしていたジュリアンの言葉に思いもよらぬところから返事が来た。
「リカード、お前なんで......」
「わたしが決めたの。貴方の意志じゃない」
 間違っちゃいない。首には魔力増幅の首飾り。ふと見るとジュリアンの左耳には同デザイン のピアスが付けられていた。自然に笑みが漏れる。
「責任だって自分でとれるわ」
 制服はもう着ていない。自宅から持っていた私物の弓道用衣服と、茶色のヒールの低いロン グブーツ。高飛車に腕を組むのが彼女らしい。髪の毛の色さえ除けば、彼女こそケヒナーやリ リィの妹に思える気の強さだ。
「なぁ、リカード。とっととワープの術使えるようになってくれよな。とりあえず最初はコレ で。どこいく?」
 取り出したのは小さな魔力の指輪。言い方からすれば、ソレにワープの術の能力が埋め込ま れているのであろう。
「そんなもんも考えてなかったわけ? あんたって、ホント大バカものね!」