07. Girl meets boy

 正直なところ意識なんて全くしていない。リカードにとってジュリアンは母親の友人の息子であり幼なじみであり、決してそれ以下でもそれ以上でも無い。
「はずなんだけどなぁ」
 堅苦しい服を脱ぎ捨てて、年頃の女性の肌があらわになる。鏡の前に立つと自分の顔と目があった。父親は運動用品関係の商人だった。体を動かすことが好きでボーイッシュな母親との出会いも相応の販売物関連だったと確か聞く。両親の影響をうけた一人っ子のリカードは幼い頃から活発でボーイッシュで言いたいことをはっきりと言う強い娘であった。容姿もそんなもので、いつも短いブルーの髪の毛。彼女自身も動き易いのでマメに切ってもらっていた。
「二人とも、将来はいいお婿さんになるね」
 誰だったか忘れたけど、たしかジュリアンと二人でいるときにそんなことを言われた。まだ声変わりもしてなかったし、身長差もなかったから間違えられたのだと思う。別に今回が初めてのことではなかったし、特に問題もないのでリカードは気にしてすらなかった。
「そっか。お前、俺より髪の毛短いもんな。俺と並んだら女にゃ見えないなー」
 これまで誰に同じことを言われても動じることはなかったし、オルガリー家の使用人その他諸々に嫌がらせを受けても全く気にしなかったリカードは、このとき初めて頭を打たれたような気がした。そのときの衝撃を今でも覚えている。成長した今、いくら男勝りな振る舞いをしていても女性らしい丸みを帯びたリカードを男性と間違える人などいなかったが。
「気にしてるなんて......」
 肩にかかる自分の髪の毛をくるくるとつまみあげた。整える程度でしか髪の毛は切っていない。年月の差は大きいので、ジュリアンの髪の長さには到底かなう訳が無いけれど。
 女性が嫌いという訳ではなかった。ただリカードの知る女性は基本的に権力に媚びを売るタイプの人が多く、自分の意志で動く女性はほとんどいないといってもよい。武力と権力のこの国で、進んで馬術や弓道に励む女はリカードくらいだったし。
 たぶん今日は何か調子が悪いのだ。そもそも忌々しい出来事を夢で見てしまうからいけないのだ。気にしてなんか無い、気にしてないよ。必死で言い聞かせる。それだけ、ジュリアンの存在が大きいというのは事実なのだけど......。
『どうして?』
 そんなの知らない。リカードの家もそれなりの貴族ではあるので、彼女自身も外の世界をあまり知らなかった。心のどこかで、いつか術を使ってどこかに行けたらいいのに。たまにそんなことを思う。


 シャワーを浴びて雑念を振り払い、ケヒナーと軽くお茶でも飲みながら時間を過ごす。次第にらしくない愚痴や口調や日常的な会話等。リカードはそれだけで心が洗われた気がした。ケヒナーは本当にそれだけの魅力をもつ人だと改めて感じさせられる。
 お茶の席にジュリアンはやってこなかった。