もともと彼にとっては本当にどうでもいいことだった。
高校二年生の夏休み。来年は受験戦争に巻き込まれてしまうのだから、のびのびとしていられるのは実質今年が最後になるだろう。そういうわけで先月は友人とプールに行ったり、花火をしたりなど結構満喫していたんではないかと自分でも思う。黒いタンクトップからのびる筋肉のついた腕は小麦色をしており、ゆで卵の薄皮の如く皮の張り替え真っ最中だ。
その肌を更に傷めつけんと照りつける太陽。その下で彼は何を好んだのか胡座をかいて座っている。
「だーっ、あちぃ!」短く切った黒い髪の毛を掻きむしると、右手はそのまま汗でぐっしょりとぬれた。既にびしょびしょになっているタンクトップでその手をぬぐい、彼は目の前にある箱を開ける作業に戻る。
青年が居るのはどこかの家の一軒家のようだった。比較的新築なのだろう。まだ汚れの少ない白色の外壁が建てられている。それを考慮するならば、彼の現在いるところは庭のようにも感じられた。浅い芝が先日の雨を受けてかキラキラと輝いており、すぐ側にはミニトマトが育っているあたり、家庭的なものを容易に想像できるだろう。
と、すぐ側にある窓がガラガラと開き、続けて女性の声が外に向かって放たれてくる。
「和也ー、キリのいいところでご飯にするから、切り上げていらっしゃいー」ぐったりと、彼は返事した。なるほど、名は和也というらしい。
和也の前には古ぼけた段ボールの箱がいくつも置かれていた。その大きさも大中小様々である。いずれも何十年も蓄積されたと思われる白い埃が大量に積もっていることだけが共通していて、それらは一列にまっすぐ延びて置かれていた。
箱の先には、その新築の家にはあまり似つかわしくない古ぼけた物置が建っているではないか。
重苦しい色合いと、家と対照的にツタの貼った茶色の壁が独特であり、なんとも言えない雰囲気を醸し出している。あまり大きくはないその物置の扉は現在開け放たれており、どうやら和也はそこから段ボールの箱達を取り出したらしかった。
「ふぅ……」なにやら小さな箱から怪しい色をしたツボを取り出し、それを側に用意してあったウェットティッシュで拭き取る。そのまま背中側に置かれていたプラスチックのケースに入れられた。
そこまでの動作を終わらせると和也は立ち上がり、先程女性の出てきた窓に向かってゆっくりと足を進めたのだった。
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