+ Prologue_4 +

ふと、そこで蘭は何かに思い当たったように顔を上げた。もしかして、自分は歩道橋の上から飛び降りに成功したのではないだろうか。そして今いるここはパラレルワールドというやつなのではないだろうか。死んでしまうともっと物騒な世界に行くか意識を失うだろうから、この状況は生と死を彷徨っている自分の肉体に対する意識の世界ではないのだろうか、と。

そう思い込めば話は早い。

「ねえちょっとあんた!」
「む?」
「もしかして私の家にも行けたりする?」
「なんだ。そんな事か。当然。そんなこと簡単だぞ。ほれ」

言うと同時に二人は月明かりなんかよりうんと眩しい光を受けた。蘭にとっては見慣れた風景、自宅の居間だ。

目の前にブラウン管のテレビ、右手にアップライト式のピアノが置かれている。歩道橋から自宅までは自転車を使うと片道六十分くらいかかる距離であるが、それが一瞬で済むというのはやはり幻想世界以外のなんでもない。

「すごいー!あんたすごいね!ってなんか安心したら眠くなっちゃった。私寝てくるー……」

なんだか不思議なくらい疲れが出てきた。そういえば電気は消して出かけたのになんで電気付いてるんだろう、ああそうかあの少年が気を利かせて点灯させたのかなーとか、土足で入っちゃったから掃除しなきゃでもこれ現実じゃないからまあいっかーとか考えて階段を昇る。

パラレルワールドで意識の世界だったらどうして眠気が襲ってくるのかまでは、残念ながら今の蘭には考えることが出来なかった。疑問に感じていれば、この後が変わったかもしれないのに。

居間に残された少年は家をきょろきょろを見回し、ダイニングテーブルに置かれた新聞紙を手に取った。

「二〇〇三年一月二十三日……」

彼はスピーキングだけではなくリーディングにも堪能のようだ。

 

......Prologue end.

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