19. Then, the cherry blossum season comes. - 6

「お、体調よくなったのか?」
「おかげさまでー」
 教授と廊下ですれ違う。久しぶりの事だ。
 学者がいなくなってから数日間。彼女は部屋から立ち上がることすら出来ず、ごはんも喉を通らないと言う状況におちいていたのだ。
 ちょうど『調子悪い……』と呟いていたため、はたから見れば体調を崩したとしか思われないだろう。 もちろんそれも原因のひとつであったのは確かだが、学者の存在が大きかったというのはあながち間違いではなかろう。もちろんだれにも言っていないが。
「一週間も休んでたからなー。お前をそこまで休ませるウィルスが見てみたいよ」
「教授、何気なくひどいこと言ってません?」
 そんな会話をして、苦笑しあう。他愛もない春の日常。学者が来る前の、そんな光景。
 女研究員は、ずっと学者に憧れていた。でも、憧れているだけじゃダメだった、ようやくわかった。ずっとずっと感情の遠回りをしていたけど、ようやくたどり着けた気がした。
 いつしか出かけていて出なかった言葉、はそれだったのだ。『向かう強い精神力』自分に必要なもの。のばすべきもの。 無理にやりたいことを見つけなくてもいい。ちょっとずつ、自分を高めることで見つけてけばいいのだ。 そんな当然の事なのに、彼女は気付くことが出来なかったのだ。
 遠回りした感情が沢山沢山満ちあふれて、『ほんとうにやりたいこと』の意味が分かった気がした。

 だから、いまこんなにも清清しい。

「じゃ、ぶりかえすなよー」
 教授がそういって、すれ違い様に歩いてゆく。言い方と表情を見ると、彼くらいは『本当に体調を崩した理由』が分かってるのではなかろうか。女研究員はほのかにそう思ったりもした。
「あ、教授」
 と、そんな教授に間髪入れずに女研究員が呼び止めた。あー?と言った表情を向けて教授が振り向く。
 まだ、間に合うでしょう?心の中で言い聞かせた。彼に。



「あたし、世界を見て回るような、そんな学者になりたい」


[cleverness 完]