「お、体調よくなったのか?」
「おかげさまでー」
教授と廊下ですれ違う。久しぶりの事だ。
学者がいなくなってから数日間。彼女は部屋から立ち上がることすら出来ず、ごはんも喉を通らないと言う状況におちいていたのだ。
ちょうど『調子悪い……』と呟いていたため、はたから見れば体調を崩したとしか思われないだろう。
もちろんそれも原因のひとつであったのは確かだが、学者の存在が大きかったというのはあながち間違いではなかろう。もちろんだれにも言っていないが。
「一週間も休んでたからなー。お前をそこまで休ませるウィルスが見てみたいよ」
「教授、何気なくひどいこと言ってません?」
そんな会話をして、苦笑しあう。他愛もない春の日常。学者が来る前の、そんな光景。
女研究員は、ずっと学者に憧れていた。でも、憧れているだけじゃダメだった、ようやくわかった。ずっとずっと感情の遠回りをしていたけど、ようやくたどり着けた気がした。
いつしか出かけていて出なかった言葉、はそれだったのだ。『向かう強い精神力』自分に必要なもの。のばすべきもの。
無理にやりたいことを見つけなくてもいい。ちょっとずつ、自分を高めることで見つけてけばいいのだ。
そんな当然の事なのに、彼女は気付くことが出来なかったのだ。
遠回りした感情が沢山沢山満ちあふれて、『ほんとうにやりたいこと』の意味が分かった気がした。
だから、いまこんなにも清清しい。
「じゃ、ぶりかえすなよー」
教授がそういって、すれ違い様に歩いてゆく。言い方と表情を見ると、彼くらいは『本当に体調を崩した理由』が分かってるのではなかろうか。女研究員はほのかにそう思ったりもした。
「あ、教授」
と、そんな教授に間髪入れずに女研究員が呼び止めた。あー?と言った表情を向けて教授が振り向く。
まだ、間に合うでしょう?心の中で言い聞かせた。彼に。
「あたし、世界を見て回るような、そんな学者になりたい」
[cleverness 完]