「投影術を使うなんて!」
死者というイレギュラーな存在を、魂だけとはいえ呼び戻すのは、もはや術の範囲外だった。それを、しかも具現化まですればいくら大和家の女王でも体力と魔術力を膨大に消費する。
それでなくても大人数の移動を二回連続で行っていたのである。
ふと、カナが目を覚ました。見慣れた絨毯のおかげですぐに自分のいる場所がわかったのだが、いつの間に移動したのかと疑問に思う。
いつか目覚めた時のように、側にはリョウがいた。
「殺める必要がないなら、殺めない方がいいに決まってる……」
リョウが本当に小さな声で言っていた。距離が近かったのでなんとか聞き取れたのだが、カナにはその言葉の意味もこの状況も分からなかった。リョウも、聞かれているなんて思っていないだろう。カナの方に目も向けていなかった。
カナもリョウの視線の先を見た。
初めに目に入ったのは、よろめく撫子とそれを支えるカイの姿だった。その奥で、君楊の頭をアイリが撫でている。
もっとも不可解なのは、更に奥にいる人物だった。それは先程追っていたはずのヨシナオ本人で、彼は立て膝をついて、ある人物と向かい合っていた。
ついでに自分の体は筋肉痛にでもなったように、動くと悲鳴を上げてしまう。
『なんなの……?』
よく見ると、アキラとヨシナオの距離が徐々に近づいていた。
「ヨシナオ」
アキラが声をかける。今度はヨシナオからの反論は無かった。ヨシナオが複雑そうな顔を向ける。
「どんな事情があったとはいえ、私がヨシナオの育児を放棄したのは本当だ。謝って済むとは思っていない。だがもう妻はいないし、私は他に誰かを娶る気もない。それでも」
アキラはしゃがみ込んだ。赤いマントが同じ色をした絨毯と混ざりあう。
目の高さがヨシナオと並んだ。
「我が息子の成長した姿が見れただけでもう心残りはないよ。私を殺すなら殺してくれ」
ヨシナオは何も言わない。アキラが目を伏せた。
自分の前で人が動く気配がする。目を閉じる直前、アイリがミクロ光線をヨシナオに手渡すのが見えた。
いよいよそのときだとしてアキラは歯を食いしばる。
そして衝撃。
だが、その衝撃は暖かく、柔らかいものだった。ごとん、と自分の背後でなにか固いものが絨毯に落ちる音がした。
目を開くと、自分の兵士の姿が見えた。視界の隅の方に、くすんだ金髪が少しだけ見える。
「父さん」
アキラは、そこで初めて息子を抱きしめた。