EACH COURAGE

Story - 4th:One must go abroad to hear of home [11]

第4章 絆はすぐそこに [11]

 宿を出て、少ししたところでカナがまくしたてる。さすがにあの建物の中では騒ぎになってしまうと思ったため、食事をすぐに終え、支度をして出て来たのだ。
 昨日と同じで天気は良かった。四季国では気候の変化が著しいが、貴族国はそれに比べるとずいぶんと過ごし易い。しかも今日は風もほどほどに吹いており、洗濯物を乾かすのにとても適していると言えた。
「その、昨日会ったというヨシナオ君の気が感じられればいいのだけれど」
 撫子は、一度会った人の気を探ることでそこに移動することができるらしい。だが不幸なことに、昨日はまだ撫子はキンチと一緒にいたのだった。既に丸一日経っているので、同じところにいるとは考え辛い。
「この中で一番魔術力があるのは……カイさんみたいですね」
 君楊が言った。彼がアイリの使い人形であることは撫子には昨夜のうちに話してある。アイリが「にーちゃんじゃないのか?」と呟いているが、君楊が顔を困惑させて首を横に振った。だいたい、それを疑問にしてしまうと、アイリのレストランをふっとばしたカナの魔術力は一体どうしたのかという話になってしまう。 アイリは腑に落ちなさそうだが、使い人形の発言を信じる事にしたらしい。それ以上は何も言ってこなかった。
 撫子がカイの両手を突如掴む。突然の行動にカイが顔を赤らめるが、撫子はそれにはお構い無しだ。
「カイさん。私が貴女の意志を汲み取ります。だから、ヨシナオ君のことを思い描いて!」
「え!」
 正直避けたいところであった。あまり良い印象を持っていないうえに、そんなに絡んだわけでもない。それなら最初に彼を発見したリョウの方が適任だと思ったのだろう。そこでリョウの名前を思い浮かべ、カイの頭に雑念が混じる。
「集中して!」
 いくら撫子といっても相手の考えていること全てを覗けるわけではないだろう。先に混じった雑念がリョウのこととは特定は出来ていないはずだ。だが、それがヨシナオのことではないことは感情の波で把握することが出来るのだろう。
「すごいね」
 カナが感嘆の声を漏らす。君楊が頷いて、
「属性を見ることと同じで、感情の起伏を見るのですよ」
 と言った。そういえば君楊はこの間も属性がどうこうと言っていた気がする。 撫子が感情の起伏を見れるのならば、属性の判定も出来るのかもしれない。なんといっても大和家の撫子様だ。
『時間があったら調べてもらおうーっと』
 これでカイとアイリの属性で相性診断が出来るなぁなどと考える。 そうしているうちに、撫子の首についていた金色のリングが輝き始めた。
「皆さん、位置を特定しました。移動します、こちらへ!」
 ひゅう、とアイリが口笛を鳴らした。さすがだ。かの大和撫子が同行すれば、様々な局面も乗り越えられそうな気がする。
 撫子はカイの手を握ったままである。カイは瞳を固く閉じていたが、その顔には汗がびっしりと浮いていた。唇を横にひいて、何かに耐えているようにも見えた。
 二人の足下を中心にして緑色の円が浮かび上がる。笑国から移動する時に見たものよりも数段に大きい。また、あのとき見たものよりも模様が複雑になっているように感じられた。 カナ、リョウが円の中に飛び込み、続いてアイリと君楊が入り込む。 見計らったように光が地面から垂直に伸びた。勢いが非常にあった為、そのまま雲を突き抜けられるのではないかと、思わずカナは思ってしまった。

 

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