EACH COURAGE

Story - 4th:One must go abroad to hear of home [10]

第4章 絆はすぐそこに [10]

「あの、おばさん。そのときの赤ん坊は、今どうしてますか?」
「んー。さっきも言ったけれど、コツさんが亡くなった時にどうなったかわからないのよ。ついこの間、小屋の様子を見に行ったけど誰もいる気配はなかったしね」
 カナががっくりと肩を落として椅子に腰掛けた。先の二人組は既にお互いの会話に戻っている。リョウが悔しそうに舌打ちする音が聞こえた。
「じゃあ、そのお子さんがどのような背格好だったかはご存知ありませんか?」
 君楊が改めて尋ねた。水の入ったグラスに手をかけているが、今朝は何も口には入れていないようだった。 女性の顔が君楊の方に向けられる。
「あんたたち、不思議なことを聞くのねえ。ええと、最後に会ったのは……二年くらい前だったかしら。ヨシナオ君、彼の名前なんだけど、薄い茶髪だった気がするわ。ああでも、茶色というには薄すぎるし、金髪というには暗すぎる……とにかくそんな感じよ」
 女性の髪の毛は赤茶色をしていた。うなじで縛ったクセのあるその髪をつまんで眺めている。 アイリが持っていた紙をカイが覗き込んだ。
「体は弱そうだったわねえ。頬にそばかすが残っていて、話すととても可愛い子だったわよ。うちに来るときや外で会う時はいつもコートを着ていたけど、小屋にいるときは作業をしていたのかしら、いつも青色のぴったりした服を着ていたわ」
 あいつだ。
 リョウの頬を汗が伝った。紙を見ていたアイリとカイが顔を見合わせる。君楊が思わず水を流し込んだ。カナもいつの間にか再開していた食事を喉につまらせている。
「あ、ありがとうございます」
 なんとか声を出せたカイが頭を下げる。女性はニコニコしながら再びピッチャを手にした。
「いやいや。もしかしてあんたたちは探偵か何かなのかね。もしヨシナオ君が見つかったらあたしにも教えておくれ。なんだかんだ言ってよく遊びに来ていたからさ」
「はい。そのときは是非元気なお姿をお見せしたいです」
 撫子が微笑む。カナは胸中で思った。あの様子じゃ元気な姿を見せられないかも……。先程のぐったりとした少年の姿が瞼に蘇った。
 満足そうにして女性がテーブルから去って行こうとする。 そんな彼女にアイリが声をかけた。
「おねーさん、全然まだ若いよ。三十代には見えないさ」
 振り向いた女性は歯を見せて笑った。
「ありがと。でもそういう台詞は男が言ってなんぼのものよ」
 リョウはますます汗を流していた。

 

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