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Story - 4th:One must go abroad to hear of home [09]

第4章 絆はすぐそこに [09]

 魔術が発達したこの世界で、とらえ方さえ間違えれば魔術戦争や差別が起こるかもしれなかった。 魔術者が、能力のない者を虐げようとした風習もあったのである。今こそ属性も魔術も平等な扱いをされているが、それにはこの『機械技術』の発達が影響していたのは間違いなかった。 遺伝で決まる魔術と違い、機械技術は誰でも利用できる。実は値段が高いと言っても、魔術連盟の術既製品よりもうんと手が出せる値段だった。
 アイリが錬金術などを嗜むのも、そのように安価で人に提供できる技術を尊敬していたからだった。
『そういえば、アイリはミスター・ミウラの知り合いなのかしら』
 偉大な発明品である(らしい)主人命人形(マスタードール)をどうでもいい知り合いに渡したりはしないだろう。なんらかの信頼をうける間柄なのだろうか。しかしそれにしては彼の名前が出るたびにアイリが反応しないのも疑問である。いや、もしかしたらアイリが顔にだしていないだけで心の中で思うことがあるのかもしれない。カナは自身の行動を振り返って考える。
「だからコツさんがこの間亡くなったときは本当にショックだったわ。十年以上も前にミスター・ミウラが消息を絶ってからというもの、コツさんはずっとこの貴族国にいたのにねえ。残された幼いお弟子さん、あぁ、コツさんのお弟子さんね。彼も姿を見ないし……」
 女性はバスケットを通りがかった青年に預け、今度は水をグラスに注ぎ始めた。アイリ、君楊と横に並んで注ぎ、リョウの隣にやってくる。
「十年以上前?」
 その単語に彼が反応した。女性はグラスとピッチャをテーブルに置くと、両手を大げさに広げた。恰幅があり、その動作は全員の注目を集めるのにはじゅうぶんだった。
「えぇ。いや、ミスター・ミウラがある日突然いなくなったじゃない。そのせいでお弟子さんも散り散りになってねえ。貴族国の草原出身だったコツさんは山奥に戻っていらしたの」
「よくご存知ですね」
 撫子が感心したように言った。
「まぁ、当時あたしは二十代だったからね。そんなことを言ったら年がバレちゃうわねえ、あはは。 そんなことは良いんだけど、コツさんはその時赤ん坊を抱きかかえていたのよ。あたし思わず聞いちゃったわ。コツさんも良い年してスミにおけないわねえ、って」
 女性はけらけらと話しだすが、そこで全員が目を合わせた。 赤ん坊、十年前。ただの偶然には思えない。
「赤ん坊なんてみんな同じ顔に見えちゃうものだけど、さっきお姉さんが見てた絵を見るとついつい思い出しちゃうわ。あたしも年なのかもね」
 カナが食べていたパンをぽろりと落とした。カイが慌ててそれをキャッチする。
「もう、カナ行儀悪い!」
 だが彼女の耳にその言葉は入っていなかった。椅子から立ち上がって、女性の顔を真っすぐ見つめる。 カナ達以外に客はそんなにいなかったが、そのときの衝撃音に反応して遠くの方にいた男女の組がこちらを眺めていた。
 女性もカナの行動にきょとんとしている。

 

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