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Story - 4th:One must go abroad to hear of home [06]

第4章 絆はすぐそこに [06]

「ねえカナ。私得しちゃってると思わない?」
 思考を遮るように、隣のベッドに寝転がるカイが話し掛けて来た。
「得?ああ、撫子と旅が出来ること?」
「うん、勿論それもそうだけど……」
 そこで言いよどみ、顔を赤らめる。カナは考えることが無くなったため、ごろんと体を反転させた。一旦俯せになって布団に顔を埋め、今度は横に倒して、親友の方を向いた。ジャケットは脱いでいるため、青色のワンピースが肌をくすぐって気持ち良い。
「リョウさん……ってカッコいいじゃない」
「はぁ?」
「私、リョウさんのことが気になるんだ。好きかもしれない」
 うっとりとした瞳で天井を見つめている。カナは眉間に皺を寄せて彼女の発言を脳内で繰り返していた。 その間もカイはますます顔を赤らめて、きゃーとか呟いている。なんらかの妄想を巡らせているのだろう。
「いやまぁ……でも会ったばかりだよ」
「何言ってるの。恋愛は出会いが肝心なのよ。ビビってくるものがあったのよ、ビビっと。カナだってカッコいい人好きじゃない。何にも感じなかったの?」
 一昔前のアイドルのような発言で熱く語ってくる。ビビっとくるかどうかは置いておき、確かにリョウは好青年であるといえたから、分からなくもない。
『でもなぁ、印象がトマトだもんなぁ』
 四季国で出会った時のことを思い出す。野菜をいっぱい持って浮かれていた自分にも問題はあると思うのだが、それにしたって余所見をして駆け出すリョウが悪い。それにそのせいで四季国一番の街サマリで有名なトマトを台無しにしてしまったのだ。 加えて人が気を取られている間にワープの杖を盗んで走り出すなんて。それに、センスが良くない。服装は異国文化があるかもしれないが、あの、首からさげた……
「……なのよー。でも、不可解なのはあのペンダントね。センスをどうこう言うつもりは無いけれど、あんなに大きなデザインで、色も不気味だし」
 カナが思いふける最中にもカイは賛辞をまくしたてていたらしい。だが、何の因果かカナが考えていたこととカイの言っていることは共通していた。
「あー、あのペンダントね。あたしもそれ思ったよ。でも触んない方がいいよ。めちゃくちゃ怒られるから」
 トマトにダメージを食らっていたリョウの落とし物であるそのペンダントに触れたことを思い出す。銀色の土台に埋め込まれるように配置された真っ赤な宝石。それが双子のように寄り添っていて、奇妙な雰囲気を出してたのだ。軽く触れた直後に見せた睨みつけるような視線は、そういえばこの間笑国で見せた顔に似ていたかもしれない。
「何ソレ。あんたいつの間に私のリョウさんに触ったの」
「いつからカイのものになったのよ……」
「まぁいいわ、追求しないであげる。そんなわけだから、カナ、リョウさんのこととらないでね」
 カイもごろりと体を動かした。二人が向き合う姿勢になる。
「うん、大丈夫。あたし……もう誰も特別になんかしないから」
 カナが微笑んだ。広くない部屋の隅には、布で包まれた棒と青い鞘に入った剣が並んで立てかけられていた。

 

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