EACH COURAGE

Story - 4th:One must go abroad to hear of home [05]

第4章 絆はすぐそこに [05]

 キンチの館から離れ、更に塀を越える。 壁の内側は上流階級の住処ばかりで、カナたちが休めそうな場所は殆どなかった。 先程は目的地に行くことを重視していたため気にならなかったが、道行くものの視線を感じる。 撫子やカイはともかく、カナやリョウなどは町娘や町息子の服装だ。手痛い視線がちくちくと刺さる。
 そうして草原地帯へ抜け、集落のひとつに辿り着く。ちょうど良さそうな広めの宿でカナたちは休むことに決めた。
「私はあまり外に顔をだしていません。ですから道行く人が姿を見ても、大和家の撫子だとはおそらく気付かないでしょう。ですから皆様にお願いです。私に『様』という敬称をつけないで」
 部屋割を決め、鍵を手渡そうとしたときに撫子がそんな風に言った。 宿の主も現在はおらず、ロビーにいるのはカナ達だけだ。
「でも、撫子様にそんなこと出来ません。それに、名前で反応されるのでは?」
「代々の大和家の女王に憧れて名をつける人は少なくありません。大丈夫よ」
 術を学び、更に幼い頃の経験があるためカイが反論したが、撫子はそれに対してもやんわりと返答した。 仕方なさそうにカイが頷くが、おそらく彼女はきっと人のいないところでは様づけして呼ぶに違いない、とカナは思った。
 それが、ついさっきの話である。木造の階段を上り、それぞれが部屋へと駆け込みだした。 カナも予定と随分と異なる旅行になったものだと思いながら、ベッドに倒れ込む。 楽しいのは事実だが、いろんな知識を放り込んだこともあって、やや疲れているのは事実だ。 本来ならば身体を清潔にしてから転がるのがマナーというものだろう。しかしそれに構ってはいられなかったのもある。
 申し訳なさ程度にジャケットをチェアに投げ捨て、一緒に愛用のコバルトブルーの剣も身体から離す。
「ねえカイ。大和女王って、誰?」
 部屋は二人部屋で、カナとカイが同室だった。先程遮られた疑問をふと思い出し、尋ねる。
「私も詳しくは知らないんだけど……大和家の中で、今撫子様がやろうとしていることを行おうとした人物よ。それゆえに異端の者扱いされてて、本当の名前も伝わってないの。だから大和女王っていう通称しか伝わってないわ」
「ふうん……。教科書から外されちゃったのかな」
 だとしたら、もし今回の事件が成功しなければどうなるのだろう。撫子も歴史から抹消されてしまうのだろうか。会って間もない相手だったが、あの優しそうな女性がみんなから忘れられるのは嫌だな、とカナは思った。
 願い事か……。 ベッドに横たわり、天井を見つめ、思考する。

 

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