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Story - 3rd:Nadeshiko is the Magic Country Queen [31]

第3章 魔法国の撫子様 [31]

「貴女はだから甘いのだ。国がいくつかに別れて統治されているからこそ管理も行き届く。それだけではない、『虐げられる者』が存在しないと人間は存在できないのですよ。私の貴族国が大きな争いもないのは、階級をはっきり決めているからです。失国を仲間に加えては、それこそ国の中で内乱が起こる」
「ですがっ、失国の者たちが私たちと変わらない人であるということを世間にもっと浸透させれば、変わってくるはずです」
「本当に同じですか?彼らの属性を考慮しても?」
「そのように、属性に左右される風習は既に廃止されたはずです。彼らは私たちと変わらない人間だわ!」
「たしかに、生まれながらに決められ、もはやお飾りでしかない『属性』という制度は一部の人間にとって意識のないものでしょう。ですが撫子様。貴女のその地位は全ての『生まれる』という根元である聖属性によってもたらされたものなのですよ」
「くっ……」
 撫子自身、それは分かっていた。別に自分は地位に甘んじるわけではない。けれど、全ての『失う』という根元である暗属性(あんぞくせい)を持つ住民で占められた失国の人を養護するには、自分の立場を捨てなくてはいけない。
 願いが叶うならば、そんな属性も捨ててしまいたかった。だが非常にも、国家としてのやりとりをするにはそれ相応の階級が必要であり、今の立場も役に立つのである。この立場がなくなればこうして話し合いをすることですら不可能になる。悲しいくらいの矛盾が生じるのだ。 キンチは体を背もたれに預け、ゆっくりと口を開いた。
「今日貴女と話が通じれば、今始動している『計画』を中止することも考えました。だが、それももう無理なことがわかりました」
 キンチはいつになく饒舌だ。もはや相手があの『大和撫子』というのは関係無くなっている。 撫子も困惑する思考と、キンチの様子に圧倒されて、言葉が出ない。
「計画……?」
「そうだ。思考回路が単純で扱いやすく、ある程度の技術を持つ娘を我々の計画に利用することにした。彼女には失国を封印してもらう」
「そんな!」
 撫子の叫びがインテリアを浮き上がらせた。怒りか、疑問か。彼女の叫びがそのまま詠唱なしで魔術の力を帯びる。テーブルの上にあったカップがよろめき、中身がこぼれた。 閉め切ったハズの部屋に、風が巻き起こる。
「その彼女がもうすぐ、ここに来る」
 その言葉が発動の線を切った。 撫子の掌が大きくテーブルをたたきつける。衝撃だけではない。どこかのガラスのコップが割れた。
「貴女がそれを止めるというならば、そんな貴女を止めることはしません。ただ、もうこの計画は始動した。貴女の母上も師匠も承知だ。知らないのは、貴女だけだ」
 唇から血が出る。風の威力が次第に増していく。
「だから、貴女はやはり子供なのだ。王たるもの、臣下の裏切りは珍しいことではない。だが、気づくのが遅すぎた。 自分の階級におぼれ、そこを見抜けなかったのは、他でもない君のミスだ」
 否定はしなかった。 自分の決められた立場が嫌いではあったし、誰も文句をいってくることもない。それにうんざりしていた。だが逆をいえば、自分の意志を通すこともできると思った。自分が言えば失国をどうにかすることが出来る。
 パーン王の四季国、キンチ王の貴族国、アキラ王の笑国、ブルー王の楽園国、そして自分の納める魔法国と、『彼』の失国。これら六つの国を統率することが出来ると思っていた。そうすることで、生まれながらにして虐げられなくてはならない存在の元にきてしまった『彼ら』を救うことができると思っていた。
 だがしかし、今や他の王やその配下もこの件に関しては彼女の意志を聞き入れないだろう。事実、計画とやらがそれを示している。 この魔術現象は、王への怒りだけではない。今の今まで何も気づけなかった自分に対する怒りの表れだった。

 

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