「撫子様!」
「失われた国、というのは私たちが勝手につけただけの名称。決して失国の者たちが邪悪、ということはないでしょう?彼らにはその名前だけで非常に苦しい思いをさせています。それなのに国を無くすのは勝手なことではなくて?」
「しかし」
「なりません。皆平等です。私の言うことが聞けないのですか?」
キンチはそれきり黙りこくってしまった。
撫子はほっとしたように息をつき、テーブルの上に置かれたティーカップに口をつける。中身は既にぬるくなっていてお世辞にも美味とはいえなかったが、それでも心を落ち着けるには十分事足りた。
「撫子様……貴女が……」
視線がむけられる。
『貴女が、失国をそこまで敵視しない理由は……』
彼は。いや、彼だけではなく、他の王も懸念している言葉をふと、思い出す。
『貴女の体に失国の王の血が流れているからですか?』
しかし、口には出せなかった。
慈悲深く、落ち着きがあると有名な大和撫子でも、怒りは覚えるであろう。本気で彼女が怒ったら、国中の術者を総動員しても彼女には太刀打ちできない。
「何かしら?」
「いえ……貴女の目的は、なんなのですか?」
「何度も、伝えたはずですが」
撫子はそこでカップを再びテーブルに戻し、凛としたまなざしを見せた。
「国を一つにまとめることが、私の一番の望み。争いも最小限にとどめられるような、大和女王の目指した」
「やはり貴女はまだ子供だ」
キンチは、今度ははっきりと自分の意見を主張した。
撫子は、自分の立場が嫌いではあるが、自分の権力を嫌というほど知っている。だから、言えばわかるとおもったのだ。
しかしそれも甘い話に過ぎない。ずっと魔法国という閉ざされた空間で生活していた彼女には、そのようなところを判断するのにはまだ若すぎた。