「でも未だに信じられないわ。かの有名な主人命人形(マスタードール)がここにいるなんて」
だが、リョウから返事は無かった。振り向くと一番後ろを歩いていたリョウの姿がいつの間にか無くなっている。
「あれ?」
アイリが呟く。
カナたちもその様子に気付いたのか、離れていた距離を縮めるべく方に近づいてきた。
「あれ?にーちゃんいなくなった?」
「え?」
「あそこにいるじゃない。なんであんなとこにいるのかは分からないけれど」
カナが指差したのはこれまた高く伸びていた草むらだった。
そこから顔ひとつ飛び出してリョウが一応見える。
一応と言うのには理由がいくつかあった。
ひとつ、少し距離が開きすぎていたこと。ふたつ、おおざっぱではあるがカナたちがルートとしていた道から外れたところにいたこと。
そして、みっつめだが。
「ヘ、ン」
君楊までもを含めた四人が、口をそろえて言った。
「アホだ。本物のアホだ。詳しく説明できないがアホだ」
「ナニコレーーー!変な服ーー!」
「な、何事も経験ですね……勉強になります」
「君楊じゃなくても初めてよ。あと生き物なんだからあまりひどく言わないの、カナ」
「生き物とか言うあたりカイが一番ひどくない……?」
「やい骨」
骨、と形容されているがそれは人間だった。
本当は金髪なのだろうその癖づいた金髪は、くすんでおりまるで黄土色(おうどいろ)と言っても過言ではない。
頬はやせこけており、そばかすが非常に目立っていた。
また、着ているものが身体の細さを際立たせている。全身にぴったりと吸い付くような伸縮性のある青い生地を首から足首まで着ていた。
細かい作業を行うのに向いているかもしれない。
ウェスト部分に何かをいれる為のホルダーと、それを固定する為の黄色のベルトが付けられている。
触ったところ非常に丈夫そうなブーツも同じ黄色をしていた。