「でも未だに信じられないわ。かの有名な主人命人形(マスタードール)がここにいるなんて」
カイが横に並んで歩いていたカナに言った。
特別な使い人形とは聞いたものの、あまりに人間らしい君楊にカイは疑問だったのだろう。
そこで、道中の暇を解消するためにも、カイに君楊のことを説明したのだ。
「カイは主人命人形(マスタードール)っていうのがなんなのか知っていたの?」
「そりゃそうよー。知識として教わる範囲で、しかもすっごく有名な話じゃない。技術者ミスター・ミウラがその生涯だけでどれだけの発明品を作ったと思ってるの?その中でも主人命人形(マスタードール)が一番の発明って言われてるのに」
「いやぁなんかすごいって言うのは聞いたんだけど、うん。意志を持つ人形は二体しか存在しないとかなんとか」
「ええ。もちろんそんな希少な主人命人形(マスタードール)を目にかかれたのにも驚いたけど……あの女もあなどれないのね。悔しいけど」
あの女、とはつまり今二人の後ろを歩いているアイリのことだろう。カナが引きつり笑いをこぼす。
『なんで出会って数時間でここまで嫌いになれるのか……ははは。逆に仲良いんじゃないのかなもう』
「……ってことなのよ。ってちょっとカナあんた聞いてるの?」
「え?」
「だーかーらー。人形使いってただでさえ労力の使う職種なのよ?だって他のものを動かして使役するんだもの」
「ああ、まあ、そうだねえ」
「主人命人形(マスタードール)なんて労力はケタ違いよ。意志のあるように作られているって言っても、使役することに代わりはないわ。命を与えているのだもの、かなりの労力を必要とするのよ?」
「……よくわかんない」
「だーかーらー」
その台詞は二度目だ。
「命を持っている人形がある。でもその人形の生命力はどこからくるの?」
「あ!」
「わかったかしら?使い人形の能力は主人の能力にひどく左右されるのよ。強い人形を持つ人形使いを倒すのが大変なのは、人形のエネルギーもさることながら、それだけの使い手を相手にしなくちゃいけないってことに関わってくるのね。
人形が強ければ強いほど、その主人も強靱なわけ」
カイが柄にもなくまくしたてる。
「ははーん、なるほど。君楊はめちゃめちゃ強い能力をもってるし、その上、主人命人形(マスタードール)なんてすごいものだから、アイリもすごいんだねぇ。はは」
「ああもう、むかつくくらい悔しいけどすごいのよああやっぱむかつく!キィーーーーー!」
「……御主人様、なんか褒められてますよ。微妙な感じで」
「はっはっは、嬢ちゃんは面白いなぁあっはっは。なぁにいちゃん?」