そこまで話し終えるとカイは再び君楊の方に振り向いた。
「だからね、私はそのときに魔術者になりたいって、強く思ったのよ。そのときまではそんな風に思わなかった。
親のことはもちろん好きだし、憧れてもいたけれど。めまぐるしい生活に疲れていたのかもしれない。
でもね、そのときのことがきっかけで、撫子様のような素晴らしい人になりたい。そう思ったのよ」
草原に佇むその姿は、それだけで一人前の女性にふさわしかった。そよ、と風がなびいて、草と髪の毛を揺らす。
「ま、アンタさんには無理だと思うけど」
そんな雰囲気を壊すように言ったのは、当然ながらアイリだった。
カイが一瞬顔を歪めて……それはもうとてつもなく形容しがたい顔で反論しようとするも、
「そりゃ、私はまだまだ未熟だもの。そのくらい、あなたに言われなくたってわかってるわ」
口をついて出たのは逆にしおらしい言葉だった。
「いや、違う違う。いや違わなくは無いけど」
「?」
「アンタは撫子じゃないだろうに」
きっぱりとこの女は言いはなった。天上天下唯我独尊。自分の言うことは間違いではないからよく聞くがいいと言わんばかりに。
「お嬢ちゃんは、お嬢ちゃん。いくらあがいたって大和撫子にはなれんよ。
それより今の自分を大事にして、自分にできる限りでやるのが当然ってもんじゃね?」
ふんぞり返って言う。あまりにアイリらしかぬ発言だったので、カイはもちろんのこと、普段周りの行動に無関心なリョウまでも驚いていた。
「……なんだよ、何か文句あんのかよ」
「いや、御主人様もたまにはまともなこと言うんですねってみんな思ってるんですよ」
「うるさいわっ!」
アイリが叫ぶ。いつのまにかカイは笑顔を取り戻した。