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Story - 3rd:Nadeshiko is the Magic Country Queen [23]

第3章 魔法国の撫子様 [23]

「あっ!」
 思わず声が出た。 今自分の目の前にいるのが誰かを、ぼんやりとではあるが感じていた。それと同時に、汗の理由も身を隠すようなローブの存在も、不思議なくらい疑問点が繋がっていった。
「どうしたの?」
「あ、いえ……あの……」
「道に、迷ってしまったの?」
 女性は再び尋ねた。
「はい。最近この国にやってきたんです。まだ地理に慣れていなくて」
 今度はきちんと答えることができた。
「どこから来たの?」
「えっと、四季国です」
「そう。今は辛いかもしれないけど、いろんな所に行けるのはすごく幸せなことよ」
 カイは頷きながら思う。 目の前の女性は自由に街を歩いたことがないのだろう。 だから今、こんなに悲しそうな表情をしているのだ、と。
「ここは裏路地よ。この国は四季国に比べたらずっと治安は良いはず。けれど、貴女のような年の子が一人でいて良い場所でもないわ。たぶん、広場の屋台の裏道を通ってしまったのね」
 女性が奥を指し示す。建物と建物に挟まれた今の場所よりずっと先に、明かりが灯っているのが見えた。
「今回だけね」
 握っていた手にほんの少しだけ力が加わった。
 するとカイはいつのまにか明るい道に出ていた。
 最後に見えたのは、何かに取り囲まれる女性の姿だった。

 

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