「貴女、大丈夫?」
自分とあまり年齢の変わらないであろうその女性に、カイはどきどきする胸の高鳴りを押さえられなかった。
目の前にいるこの女の人から滲み出る高貴さは一体なんだろう。彼女がこのような街の隅に居るのが非常に場違いなのではないか、と子供心に感じる程だった。
うっとりとのぼせるような感情は、道に迷ったことも忘れてしまうほどである。
それは恋愛感情に近いかもしれない。胸を強く打たれた気がした。
「あっ」
今思えばなんと間抜けだったか。もっとはっきり物を言えば良かった。
発言してすぐにカイは後悔した。
繰り返しになるが、年齢が対して違うわけでも無い相手にだ。離れていても五、六歳程度だと思う。
子供の頃の年の差というのは数字で表現する以上に大きな影響があると言えども、十歳程度の少女の発言にしては少々幼すぎる。
慌てふためいているカイの目の前で、女性はにこりと微笑んだ。
「道に、迷ったのかしら?」
紡がれる声はまるで神のささやきのようだ。
『大和家は、この魔法国だけではなく、世界全体を支える本当に偉大な家系なんだよ』
カイは何故か父親にそう言われたことを思い出す。
「あ……」
それでも出せた声はそれだけだった。
撫子は何も言わず、ただそっとカイの手を取る。
細い指先は、その姿からは想像出来ないくらいの汗で湿っていた。
そういえば、どうしてこの女性は真夏日だというのに全身を布で覆っているのだろう?
カイの脳裏にそんな疑問が浮かぶ。白いフードから少しだけ覗いた真っ黒の髪の毛と紫色の瞳がこちらを見つめてくる。