唐突に言い出したのは勿論カナだ。
頭の上で投げられた言葉に驚いたのはカイ。思わず顔を上げて、親友と目を合わせる。
リョウとアイリはカナの発言に何故だか妙に納得した様子だった。あーあ、と言いたげな表情でお互いため息をついている。
納得と言うよりこの事態を予想していた、とでも言うような笑みを浮かべていた。
「だって撫子さんに憧れてるんでしょ?じゃあせっかくだもの、一緒に会いに行こうよ。保証はないけど、可能性はゼロじゃないもの。二、三日くらいなら学校休んでも大丈夫よね?」
しばらくカイは考えていた。幼馴染みの根拠の無い提案に、不安もあるけれど胸が高鳴るのが分かる。
憧れの撫子に会えるかもしれない。
カイは自分の胸に手をあてた。思い出されるのは魔法国に引っ越して来たときのこと。
無論それはカナ達には伝わらないが、カイの中では魔法国に来て初めての思い出だ。
となれば答えはひとつしかない。カナに向かって軽く頷いた。
「よろしくね、カナ」
「うん!」
二人は以前と同じように手を握りあってはしゃぎだす。
そんなカナの様子をリョウが遠くから見ていた。
『あいつにとって……』
自分が声をかけられた時を思い出す。
『一緒に行く人が増えていくのは、たぶん友人とかが増えていくことなんだろうな。初対面の人も、昔からの友人も、変わらない。あの時ぶつかったのが俺じゃなかったとしても……あいつは』
そう考えると、なぜだかリョウの胸が痛くなった。どうしてそんな風に思うのか、その理由は彼自身にもわからなかった。
「ま、あなたとはよろしくしたくないけどっ」
カナの手を握ったまま、カイは反対側に位置していたアイリに向かって舌をべーっと出す。この動作が年頃の娘らしい。
「こっちだってお断りだね。それから……アタシにはアイリって名前があるんだ。代名詞で呼ぶんじゃないよ」
「それはこっちのセリフよ。私もカイって名前があるんだから」
ハラハラドキドキしているカナをよそに、ばちばちと二人が火花を散らす。
カナは二人がどうしてこんなに揉めるのかが理解できないでいる。そんな様子を見て、後ろから君楊がこっそり耳打ちした。
「属性(ぞくせい)ってやつですね、きっと」
「へ?」
「いえいえ。僕の予想ですけどね。血液型なんかみたいに、生まれつきに決まってくる個人の性質みたいなもんですよ。古い習慣みたいですから、今は大和家の『聖(せい)属性』以外は殆ど知られてませんけど……それが原因かも知れないですねってことです。ほら御主人様、それにカイさんも。落ち着いて下さい」
そう言って、君楊が間に入っていった。