「そっかぁ……すごいや」
「こ、これは何……」
「まぁあれですね。御主人様も一言多いんですよ、はぁ」
ひそひそ言いながら身を寄せあうカナと君楊。その前では熱烈なバトルが展開されている。
「ちょっと、あなた、さっきからなんなんです!初対面の人のこと『それ』呼ばわりするわ、撫子様は呼び捨てにするわ、人を馬鹿にした態度をとって!」
「だって、馬鹿にしてるもん。伝わってるなら幸いだね」
「なっ……」
「だいたいお嬢ちゃんが世間を知らなすぎ。アタシが女だからともかく、他所いきゃもっと過激なことだって言われるぜ。……おっと、知識だけは豊富なんだよな。言ってみたい?言われてみたい?『ゴシュジンサマー』ってか」
「いいかげんにしなさいよっ!」
激昂したカイの指が開く。その手のひらが大きく振りかぶった、その時。
「まあちょっと落ち着きなよ」
カイの手は下ろされなかった。いつのまにかカイの背後に来ていたリョウが上空でその手首を掴んでいる。
「ここで切れたらそいつの思うツボだぞ。適当に流しておくのが大人というものだ」
「うわーおにーさんひっどいねえ。その言い方だと、まるでアタシが子供みたいじゃないか」
「そういうわけじゃないが……まあ、口でお前に勝つのは難しいだろうと言うのがこの間の件でわかったからな。相手をするだけ体力の無駄だ」
「それに御主人様が良くないですよ。いくら人をからかうのが好きだからって……」
「へーいへい」
リョウというまるでそれまで空気のような存在がこの場を収めた。それに便乗して君楊もアイリをたしなめる事に成功し、よく見れば先程まで曇っていた空も日差しが差し込みいい感じになっている。
「と、いうわけだ。納得してもらえるかな?」
「え?」
一番事態を把握していないのはカイ本人だろう。気の抜けた炭酸のようにふにゃふにゃとした声をだし、話し掛けられた方向に振り向く。
つまるところ自分の真後ろ。振り向けば自分の顔は成年男子の顔に近づいていた。