カイは美女である。長い睫毛、整った鼻筋、桃色の肌と血色の良い唇。
だが対面するリョウも中世的な美しさを持っていた。
風来坊である故かざんばらになった髪の毛ではあるものの、それは針金のように細く流麗だ。やや目尻がつり上がった瞳はエメラルドグリーン。一体何を食べているのか心配になるくらいの細身の体。
先程とは異なる衝撃と共にカイの顔が真っ赤になった。それに遅れて自分の右手がどうして振り下ろされなかったかを把握する。
「あ、はい……。あ、あの……手……」
「あ、悪いな」
大人しくなったカイの手首からリョウが自分の手を外す。
彼はふぅっとため息をついた後、自分に投げられる微妙な視線に気付いた。
「……なんだよ?」
気持ち悪いな、という言葉だけは飲み込んでおく。視線の主はカナだった。
「いやー、意外な一面を見たわ。あたし、あんたってすっごく他人に無関心だと思ってたから」
「悪かったな」
「褒めてんのに」
そんなに高くない身長の彼がカナを見下したように呟き、そのままそっぽを向く。
対してカナはくすくすと笑って答えた。どうもリョウは照れているらしい。髪の毛から覗く耳が少しだけ赤らんでいる。
無愛想で無口でなんだかよくわからなくてトマト男で、それでもなぜか一緒にいたいと思ったのは、彼がどこか優しいということを予想してたからかもしれない。
「カイ……?」
隣に視線をやれば、熱に浮かされたようにぼうっとする幼馴染みの姿があった。
「あ、ええと、どうしたの、カナ」
「いや、質問してるのはこっちなんだけど。まぁいいよ、うん」
微妙な反応。結局そのあともカイの様子はあまり変わらなかった。うーんどうしようか、などと悩んでいると、ちょうど同じ事を思ったのかアイリが近寄ってくる。