それまで存在が空気だったリョウがそこだけがっつり突っ込む。
そのやりとりが微笑ましかったのか、カイがくすりと微笑をもらした。
「ふふ、カナの友達なのね。高等学校で知り合ったとかなのかしら?」
「んーん、違うよ。もちろん友達なんだけど、会ったのはつい最近」
「アタシらはつい先日会ったばかりだ。アンタは?」
「その一日前」
とかいう会話を二人が後ろでしていたりする。これにはさすがに不快さを感じたのだろう。カイが眉間に皺を寄せて聞いてくる。
「え?どういうこと?カナ、一体何してるの?」
「いや、それがねー、なんかあのパーン王にさぁ『剣術任命証(にんめいしょう)をあげるから魔法国行って大和撫子っつー人に印をもらってこい』とか言われたのよね。
その道中でいろいろあって一緒することになったんだけどさ……て、カイ?どしたの?パーン王の声真似が上手すぎて驚いちゃったとか?」
カナが慌てふためくのも無理は無かった。カイの表情が今度は青白くなっていたのだ。
「な、な、撫子様ですって!カ、カナ、なんで呼び捨てなんかにするの!だめよだめ!ていうか、お会いするの?お会いするのね!」
「カカカカカカイ、落ち着いて落ち着いて。そそそそれじゃ顔芸人だだだよよよよよ」
ものすごい勢いでカイがカナのジャンパーを掴んだ。再び表情を変えた彼女はそのままカナを上下に激しく揺する。そのおかげで声が震えていた。
カナ達のちょっと離れたところには数こそ少ないものの、相変わらず魔法国の住人がいた。先程のカナの呼び捨て発言に反応したものもいたのだが、揺さぶられている姿を見ると安心したようにまた大通りに視線を戻していた。きっとカイがカナを痛めつけていると思ったのだろう。
さほど間違っては無い。
「腹へったな」
「走りっぱなしでしたからねー」
「お前には空腹感というものがあるのか」
アイリたちはその様子を傍観していた。
「やだ!ごめん!」
カナの口から危険な液体が見えてきたあたりでカイがようやく我に返った。ジャンパーから手を外し、やや赤らめた頬に手を当てながら視線を道に落とす。
「私としたことが、思わず取り乱しちゃったわ……」
目の前でよろけるカナになんて気付いちゃいない。すかさず反応した君楊が倒れかける彼女の背中を支えた。その拍子にカナも意識をとり戻し(回復の素早さはコメディならではである)自力で立ち上がる。
「でも、大和撫子様って魔法国で一番偉い人なんだよね。憧れるってことは、やっぱカイも」
今度はちゃんと敬称をつけた。言われた言葉にカイは誇らしげに胸に手を当てると、
「ええ、魔術の道を志してるわ」
顔を赤らめたままそう言った。