「んと、とりあえず戻った方がいいかなぁ」
当然周囲を見ている訳ではなかった。
いくら道が開けたところに出ても人が全く居ないというわけではない。
ただしこちらは、注意力散漫なカナ。そして現在魔法国の国民は目の前を通らんとする大和撫子のことでいっぱいだ。
そんな彼らが出会えば当然のことながら、
どすんっ
「いたっ!」
ぶつかるに決まっているのである。
一気に集中力がそちらに移動した。結局視界に魔術車が映ることないまま、カナはぶつかった対象を探す。
初めはオブジェか何かだとも思ったが、当たった時ほのかに暖かさと柔らかさを感じたためそれが生き物であることにすぐ気付いた。
また、急いで歩いていたカナは後ろに少し退いただけであったが、どうも相手は違ったらしい。
「わ、ごめんなさい」
見れば相手はカナの左斜め前に座り込んでいた。位置から察するにカナの左半身と衝突したのであろう。右肩を下げるようにしてへたり込んでいる。
その身体の丸みから判断すると女性のようだった。
曖昧に描写したのにも勿論意味はある。
彼女は顔から腰にかけて布地をかぶっていた。そのため細部のディテールがはっきり分からなかった。
光沢のある白地の布は頭部から顔、そのままバストトップにかけてを覆い尽くしている。それは左肩の辺りで濃いサファイアのブローチにより簡単に留められていた。
下に着ているのは鮮やかすぎるほど眩しい水色のローブで、魔法国らしいと言えば魔法国らしい住民の服装だった。