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Story - 3rd:Nadeshiko is the Magic Country Queen [03]

第3章 魔法国の撫子様 [03]

「撫子様?」
 魔力炉に蓄えられたエネルギーでその乗り物は動いている。この世界の魔術と機械技術の合作によれはは、『魔術車』と呼ばれる乗り物だ。 その中は広く、二人がけサイズのソファーが向かい合わさるスペースがある。その片方に座っている銀髪の女性が、声の主だ。
「撫子様、どうかされましたか?」
 気遣うように囁かれた声の先で、黒髪の女性が頬杖をついている。萌葱色のカーテンがしっかりかかっているため外の景色は見えない。 女性は人差し指ぶんの隙間を開け、そこから外を眺めていた。
 どこかぼーっとしている。別の表現をするならば物静かな表情とも言えよう。 腰のあたりまで伸びた長くまっすぐな黒髪が、カーテンの隙間から漏れるわずかな光を反射して輝いていた。 着ているものは高級そうな生地で出来た紫色のローブで、首についたバングルから伸びた装飾品がそのローブに連結している。 白い色をした袖の部分は柔らかそうな手触りの素材によるもので、手首からは黒色の何連にもなったブレスレットが覗いていた。
「えぇ……」
 頬杖をついていない方の手は膝の上で握りしめられている。 視線を窓から銀髪の女性に移すと、その動作によって揺れた髪の毛の隙間から、催涙型のピアスが覗く。 侍女とおぼしき女性は言葉を待った。
「なんていうのかしら。どうして、ただ私が城の外から出るというだけでこんな大事に」
 撫子と呼ばれた黒髪の女性は、言葉を一旦切って、カーテンを指もう一本分だけ開けた。窓枠が移動していても景色は変わらない。見えるのは大勢の魔法国民。
「どうして、こんなふうになってしまうのかと……」
「それは撫子様の人望の成せることでしょう。大和家は魔法国だけではなく、全ての国を治めるという大役を担う家系でございます。 それだけではありません。歴代の大和家当主の中でも強い魔力をお持ちの撫子様でいらっしゃいますから、国民に愛され、信頼され、讃えられないわけがありません」
 言う侍女の瞳は輝き、口調ははっきりとして力強い。
「私も、代々大和家に使えている家系ではございますが、撫子様とこうしてご一緒出来るなんて思ってもおらず……失礼しました。これは私の個人的な感情になりますね。ですが、それほどまでに大和家、撫子様の存在は国民にとって大きいものなのですよ」
「そうかしら」
 対して答える撫子は、まったく嬉しそうではない。しらっとした瞳で国民から視線を反らした。
「撫子様」

 

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