彼の言うように、なぜだか辺りはものすごく騒がしかった。
路上は『一体何が始まるのか?』というほど一部を除いて混雑している。
一部、と表現したそこは通路のようになっており、人ごみを区切るようにロープがはられていた。
ロープ周辺には警備員らしき人が間隔を空けて立っている。
注目すべきは警備員の服装で、作業服を着ていないかわりに、動きやすそうなカーキーのローブを纏っていた。
術による統率がこのような所にも現れているのがわかる。
ロープで区切られた逆側、つまり混雑している方は道なりに沿って人がごった返している。
とはいえ、おしくらまんじゅうする程いっぱいに詰まっている訳ではなく、よくよく観察してみればロープ近くの家族連れなんかはビニルシートを敷いて座っていたりもした。
ところで、魔法国は術による統率をしているものの、機械技術にも優れている。
かの有名な機械技師、コードネーム『ミスター・ミウラ』はその中でも特に優秀な人材であり、彼の生涯だけで様々な発明を残していた。
中でも一般に普及されたのが、映像投影機器である。人の顔ほどの大きさであるその機械には望遠鏡のようなレンズがついており、そこから景色を覗くことができる。それだけではなく、側にある小さなつまみを捻ることで観ている形式を保存ができるという優れた機械なのだ。
値段はもちろんそれなりの価格であるので、その小型な保存機器は貴族や魔術者を中心に普及していった。
現在その投影機を持つものが数人いる。
「撫子(なでしこ)様ー」
「撫子様ー!」
耳にするのはそんな声だ。その名前は当然ながら聞き覚えがあった。
「撫子、ってあたしが会いにいく人のことよね」
単純に疑問として口にしただけだったが、カナの言葉を耳にした通行人が恐ろしい形相で睨んできた。
おそらく、魔法国の当主にして多くの国を統一する大和家の女王を呼び捨てにしていたからだろう。
「撫子様ー」
群衆の声は途切れることは無かった。騒がしさが増していき、前方からなにやら大きな物が迫ってくるのをカナ達は感じていた。