「おはよ、アイリ」
「おっす」
カナが声をかけたアイリは、普段ポニーテールにしている髪の毛をおろしていた。こうしてみるとそれなりに長さがあるのがわかる。
昨日は遅くなってきたためそのまま笑国に泊まる事になってしまった。
あてがわれた部屋は個別であり、小さいけれどふかふかのベッドだった。
現在カナが入ってきたのは、昨日アキラと会食をした部屋で、今はそこにカナ、アイリ、君楊がいる。
「リョウはどうしてるのかなぁ……」
テーブルは昨日の状況などすっかり忘れたかのようで、白いクロスが眩しかった。
既に朝食の準備はされているにも関わらず、カナはそちらに視線を奪われることもなく現れていないもう一人の同行人のことを考えていた。
「さあねえ。死んではないと思うけど」
「物騒な事言うのはやめましょうよ御主人様……」
アイリはパンにジャムを塗り、右隣の君楊はコーヒーを入れている。その様子がなんだかサマになっていて可愛らしい。
カナは、持ってきていたナップザックと杖、それからコバルトブルーの鞘に入った剣を壁に立てかけた。
そのままその向かいの椅子に腰掛ける。
「でも、アンタ、昨夜あのオニーサン待ってたんじゃ無かったっけ?」
「うん……でも会えなかった」
昨日、あの後リョウだけはアキラに呼ばれていた。
何があったかを聞こうとカナは待ち伏せしていたのだが、いつまで経ってもリョウが戻って来る気配はなかった。
あげく彼女自身疲れのためか眠くなってきてしまった上、侍女に「そろそろお部屋にお戻り下さい」とか言われてしまったのである。
そのためリョウとアキラが何を話していたかを聞くことは出来なかったのだ。
カナも用意された穀物に手を伸ばしながら、天気の良い外を窓越しに見つめる。