EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [24]

第2章 出会いと依頼 [24]

 びくんっ
 リョウが怒りで満たされたのをカナは感じ取った。 まだ短い期間でしか一緒に居なかったけれど、そんな中で眠そうだったり、無表情だったり、そして出会ったときに少し見せた怒りの表情だったり。彼が見せた何れの表情にも一致しない鬼のような形相は、それまでの冷静な口調がさらにギャップとなって、見るもの全てを怖がらせるには充分過ぎた。 あれだけ落ち着いて食事を続けていたアイリでさえ、頬に何か冷たいものが流れるのを感じたし、君楊の危険察知センサーも警告を出していたのだ。 その場だけまるで魔術にでもかけられたような、そんな冷たい空気だった。
「……俺は、俺自身はこいつの息子が誰だろうが何だろうが関係ない。そんなことはどうでもいい。他人事だ。息子の事なんか知ったことない。けどな」
 血でも流れるのでは無いかという振り絞った声。そこまで紡いで、一旦息継ぎする。その吐く息でさえもカナには聞き取る事が出来た。多分、カナ以外も同じ事を思っていただろう。 それほど部屋は静まりかえっていたし、誰もがリョウに釘付けだったからだ。
 ガタン。アキラが椅子に座った音だ。否、彼は自分の意志で腰掛けたのでは無かった。 見開いた瞳と開いたままの唇。アキラは何かに取り付かれたかのように脱力して後ろに転がったのだろう。
「けどな……俺は、自分の子を捨てるような人間は、大嫌えなんだよ」
 リョウはそれだけ言うと、もはや動かなくなったアキラの方は向かず、カナとアイリの方に歩み寄ってきた。 そのときカナが見たリョウの顔はやはり眉間に皺が寄っていて非常に不機嫌そうであった。が、カナはなぜだか怖くは無かった。これも魔術ではないかと疑う位だった。
 アイリは再び手を動かし始めていた。リョウを見てにやっといつもの笑いを浮かべ、それから少し離れたところにいる例の老人を見やる。 丁度目があったらしかった。そういうことなんだね、アイリが呟いた気がする。 自分から離れていくリョウを見て、アキラはぽつりと呟いた。
「……何も、しないのか?」
「別にテメエをどうにかしたっていいことひとつもねえし。ああ、でも、そうだな……他所の国や国民にばれたらまずいよな。口止め料でも貰おうかな」
 リョウの唇の右端が上がる。
「何だ?金か?何でもする!だから……」
「俺を牢から正式に出して、こいつの魔術力を回復させな」
「きゃっ」
 誰もが予想しなかった行動に出た。リョウはカナの頭に手をのせると、髪をぐしゃぐしゃといじった。
「ちょ、何で、何すんの!」
 前半の問いは『どうして魔術力を』、後半は『この無意味な行動は』ということであって、リョウも勿論それを理解したのだろう。 ぱっと手を離して、カナに向かって言う。
「お前の魔術力が回復しない事には目的を達成できない。つまり俺は自由にならないだろ」
「あ、そっか」
「最も、お前に魔術力なんてあるかどうか疑問だけどな」
 そもそもリョウは成り行きで着いてきたのだ。 ただあてもなさそうな旅をしているようだった彼を見て、一人で動くのも面白くないと思ったカナが遊びに行く感覚で同行を頼んだのに過ぎない。 彼が左手につけているその腕輪を賃金として。
 アイリは自らの意志でカナの秘めたる魔術力とかなんとかを解明するためについてきている。彼女は旅に明確な目的があるらしいが、カナはそれを知らない。 どちらにしても、カナが魔法国で無事に剣術任命証を受け取ればそれでこの旅行は終了。本来日帰りで終わる事も可能だったのに、寄り道でこんなにかかっている。ただ、それだけのことだ。
 カナは何だか淋しくなった。

 

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