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Story - 2nd:An encounter and request [23]

第2章 出会いと依頼 [23]

「理由?」
 純粋に疑問に思ったのだろう、アキラは怒りを一瞬忘れて訪ねた。
「カナも座ったら?」
「あ、うん」
 しんとなった部屋に椅子の引きずる音だけが響く。
「ひとつは、お前が人を傷つけることが出来るわけがないということ。ふたつめが、その理由であり、俺が今持っているお前の秘密さ」
「……リョウ?」
 カナの声は残念ながら場違い過ぎて誰も耳に入れちゃくれない。リョウの言葉に兵士もぴくりと動きを止めていれば、アイリも興味深そうにアキラの方を見ていた。
「な、何を言っているか!私にそんな秘密など……」
「王様、冷や汗。ココ」
 あからさまに声を上擦らせてアキラが反論するけれども、リョウは自分の額を左手の人さし指でとんとんと指し示してそれに返した。 その動作に呼応して、彼の手首につけられた白い腕輪が手袋ごしに肌を撫でる。
「息子」
 その単語をリョウが口にした瞬間、王の顔色は真っ青になった。擬音で言えばそれは、ビクリ。それほど冷たい空気が流れたのが誰にでも伝わってくる。 兵士もどうしていいか判断に困っており、じっとしていられず狼狽し始めていた。
 よく見れば侍女の一団に混ざって、カナたちをここまで案内してくれた老人の姿を見ることが出来た。彼はゆっくりと瞼を閉じはじめている。
 他にも彼と同世代くらいだと思われる兵士も数人居た。彼らは狼狽する若者の中で、アキラと同じように顔色を変えている。
「年も、名前も、何もわからないんだろうな」
 しぃん、とした部屋にリョウの声が冷たく響く。相手をなだめるような、説得するような。専門家にも似た声で、彼はゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「あ……あ……」
 アキラの両手が頭をがっしりと掴んだ。
「そりゃそうだろうな」
「や、やめろ!」
「自分が息子を捨てたんだからな」

 

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