慌ててその前後の内容を探せば、実に七年ほどの隔たりがあった。
日付が自身で書き込めるタイプの物だったため、空欄があるのは非常に不思議なことである。
実際、それまでも毎日書かれていないときもあった。そう言う場合は、数日の隔たりがあるのもの順にページを綴っている。
しかもこれだけ長い間ずっと日記を書かなかったという事実だ。そこまでも長い空白があればその際は一行でも何かを記述していた。従って、この空欄はあまりにも不自然だった。
「何だ?」
疑問を解決するにはただひとつ、空白より日を遡ることだった。
そこで目にしたのは単調だった短文でも、政治に関する長文でもない。
書かれていたのは、もっと別の事柄だった。
「……」
リョウは何も漏らさない。発する言葉さえ、見当たらなかった。
と、廊下の向こうから騒がしい物音がした。しかも複数によって発することのできる大きさの音だ。
「王の書斎が開いているぞ!」
「ちっ」
先程の予想は正しかったらしく、ここはアキラの書斎らしい。
日記の内容にも納得がいった。
リョウは読んでいた日記をとにかく素早く元に戻した。
廊下に面したドア、つまりリョウ自身が入ってきたドアの事なのだが、そこから声が聞こえてくる。そのためリョウはそちらに戻らず、もっと奥へ行く事にした。本棚はまだ壁にぴたりとくっついていて、ひたすらにその間の狭い空間を抜けていく。自分の踏み付ける床に、誰か別の人によってもたらされる振動が伝わってくるのを何となく感じた。
『既に、来ているのか』
そう胸中で呟いたのは、とうとう部屋の終着点を見たからだった。アングルから察するに、この書斎には廊下に面しているドアと隣の部屋へと続くドアとが存在しているのだというのがわかる。
「廊下に行くと、他の奴らがいるかもしれないな」
言いながら、ポケットに手を入れる。取り出したのは細い針金のようなもので、リョウはそのままそれを隣の部屋へと続くドアの鍵穴に差し込んだ。
どこで得たのかは知らないが、彼はすんなりとドアを開ける。既に追っ手の先頭を視界に捕らえる事が出来た。牢屋もこの原理で抜けたのかもしれない。彼も曲がりなりに一人旅をしていたようであるから、その程度の能力を兼ね備えていても不思議はなかった。
抜けた先の部屋は書斎とはひどく異なっており、いかにも城の一室といったような空間だった。
白色の壁に、窓。青色の絨毯。圧迫されていた前の部屋とは違って、テーブルとソファがある程度で、殺風景だ。楽に茶でも飲むための部屋なのかもしれない。
この部屋はそんなに広くはなく、すぐ同じ様に部屋を繋ぐドアにぶつかった。
同時に、追っ手との距離もだいぶ狭まってきている。丁寧に鍵をあけていればすぐに追いつかれてしまうだろう。
唯一ある窓の外には小さなベランダがあり、さらに隣の部屋と繋がっているようだった。リョウは窓を開けてそこに出る。
「どうせ、追い掛けられてるんだ……っ」
そうして彼は、隣の部屋の窓ガラスをぶち破った。