途中の、そう、あの雰囲気が変わるところで看守とすれ違う。壁に潜んで鉢合わせを免れた。看守はだいぶ疲れた様子で(カナのようなのを相手にしたのだから当然かもしれないが)、これなら自分が逃げたという事を悟られるのはもう少し先になりそうだ、と少しほっとする。
『まあ、別に見つかったところでまあ痛くもかゆくもないけどな』
リョウは苦笑する。
空間が明るくなったため、走るのはやめることにした。
絨毯の上をゆっくりと歩く。人の気配は……何となくだが把握することが出来る。
「ん?」
思わず声となって出た。多くの部屋が存在する廊下に出る。
それら全ての扉が閉まっている中で何故か半開きのドアがあった。少しだけ中を覗けば、部屋はとても大きくて薄暗い。
リョウは不思議とその部屋に入りたくなった。何故だかはわからなかったけれど、本能的に『入ってこい』と訴えかけられるものがあった。
開いた隙間から、その細身の体を滑り込ませる。
書斎、と呼んでも差し支えないくらい本棚ばかりの部屋だった。部屋は勿論整備されているが、華やかさというよりもむしろ古めかしいような、そんな雰囲気を醸し出している。色彩も表現するなら淡いブラウンで、どことなく木造建築をイメージさせる作りだった。
部屋はかなり広いようで、先程まで並んでいた部屋だったら五、六室分位に相当するかもしれない。
横に、つまり廊下側に連なるように奥まで続いていて、壁の両側に本棚が並んでいる。大きさの違う本棚がいくつも並んでいるので、歩く事のできるスペースは非常に狭かった。二人以上の人間がすれ違うには困難で、ここはもしかしたらプライベートな部屋なのかもしれないとリョウは思った。
よく観察すると、足下には読書用の本の他にアルバムと思わしきものまで並んでいる。
「……?」
ふと、机のような台を本棚の間に見つけた。
『台』と形容したのは、物が積まれていて、それが物を書くためのデスクだとは理解し難かったからだ。
狭いスペースに立つペン立てのような物と、まだ新しく使われた形跡のある墨汁と染み。
それらだけがその台をデスクだと主張しているようだった。
ペン立ての側に積まれていない本がある。本と言うよりそれは、
「……日記?」
開いてあった所には羽ペンが挟まれており、左側のページには文字が書き込まれている。日付と、その日の食事のメニューと、それから、一言くらい。文字といってもその程度の微々たるものであり、ほんの少ししか内容は書かれていない。
リョウはそれに手を伸ばし、ページを遡り始めた。いくつかはページ半ばまで書かれている日もあった。
そのときの内容は大抵行われた会議の内容と思われるものだった。
「へぇ、仕事してるんだ、ちゃんと」
その辺りまで読めば、それがアキラの日記だということはさすがに察しがついた。王ならばこのような大きな書斎がプライベートにあってもおかしくないだろう。
意外な面を発見しつつ、リョウは更にページをめくる。いずれのページも、王としての記録を綴ったものだった。
ワンパターンな内容に飽きてきて、前の方まで一気にめくる。
「ん」
ふと、空白のページがあった。一ページだけではなく、数ページにわたって白紙の部分がある。