EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [18]

第2章 出会いと依頼 [18]

 カナ達が看守と別れた辺りの頃のことだ。
 一人牢に残っていたリョウはむすっとした……もしかしたらこれが地顔なのかもしれないけれど、そんな表情のまま相変わらず座っていた。
『別に元々好きでここに連れてこられたわけじゃない。……明日の刑だかなんだかの時にスキを見て抜けだせるさ』
 そんな事を考える。 そう思う根拠は全くなかったが、逃げ切ることが出来るだろうという自信だけはあった。 だから、日が変わるのを待てば良い、ただそれだけ。
 ……それだけの、ことなのに。
 ごろりと横になれば、冷たい床の感触が肌にしみ通る。一人で今まで旅をしてきて、食事にありつけないことも、そこらへんの路上で寝ることも沢山あった。だがそれを辛いと思ったことは無かった。 長い前髪が重力に従ってさらりと落ちる。自分の視界に入ってきたそれを避けようと、左手を眼前に持ってきた。 そこで目に入るのはぼろぼろになった手袋と、左手首に付けられた白い腕輪だった。
 腕輪から連想されるのはあのカナの表情だ。出会ってから……そんなに経っているわけではないが、思い浮かぶ表情は笑顔ばかり。
『あっははははははははははははっ!』
『あー!こないだのトマト男っ!』
『ち、ちがうちがう!そーゆー意味じゃないからね!』
『そこまで否定しなくてもいいじゃない。なんかむかつくー』
 それだけではない、喜怒哀楽に激しい年頃の少女らしい顔も浮かぶ。自分は既に忘れてしまった感情だ。
 けれど、
『リョウ……』
 現在真っ先に浮かぶのは、先程の悲しそうな表情だった。
「くそっ」
 左手で髪を掻きむしり、右手を支えにして体を起こした。
 カナ達を途中まで送っていたため看守はいなかった。人がすり抜けられるような窓は無いし、鍵だってかけてある。『密室』と呼べるこの場所ではどうしたって逃げる事は出来ないだろう、と看守は考えているのに違いない。
 けれども、リョウにとってはこんな牢屋など簡単に抜け出す事が可能だった。 持ち前のスピード、感性。アイリが『人を見抜く』事に長けているように、リョウにも特定の能力に優れていたのだ。
「頼りたくはなかったんだけどな……」
 呟いて、リョウは駆け出した。既に彼は牢屋の外に出ていた。

 

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