EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [17]

第2章 出会いと依頼 [17]

 少しして、カナ達が入って来たのとは別のドアからアキラが入って来た。ちょうどカナ達が座る椅子の真正面である。女性が椅子を指し示したのも、アキラが入ってくる方向を考慮してのことだったかもしれない。
「この部屋の隣の隣が、私の書斎なのだよ」
 聞いてもいないのに、そんなことを言いながら自ら椅子をひき、座る。
「君たちの為に食事を用意させていただいた。カナ殿は、魔法国へいかなくてはならないのだろう。良かったら、ここで一休みしていくと良い」
「あ、そのことなんですけど……」
 看守はきちんと業務を遂行したらしかった。カナがルートを間違えたことが伝わっていたからだ。 これなら話を持ちかけやすいと思い、カナが体を乗り出す。それと同時に、立っている女性と同じ服装をした何人かが、料理を運んで正面の扉からぞろぞろと入ってきた。騒がしくはないが、配膳に伴い空間に音が漏れる。一層話しかけやすくなり、カナはぐっと力をこめて声を出した。
「あの、ワープの杖……ええとなんか布にくるまれた棒なんですけど、それを返していただけませんか?」
「ああ、先ほど看守が持って来たやつだな。それでは、持ってこさせよう」
「一緒に剣もあったと思います。とても大事なものなので、それもお願いします」
「剣術を志す者、自分の命と同じ位大事な物に違いないな。承知した」
 食事を並べ終わり、退散しようとしていた女性の一人を呼んで言付ける。その様子だけ見れば真面目な一国の王に他ならない。
 アイリは食事に手をつけ始め、君楊も形の上でナイフとフォークを動かしている。よく見れば口に欠片を入れているのだが、彼には消化器官に似たようなシステムも確立されているのだろうか。非常に疑問に思う。
「……まだ何か心配事があるかね?」
 反対に、全く手をつけようとしないカナを見て、アキラが尋ねた。
「あ……えと、すみません……」
 懸念しているのは当然この場に居ない彼のことだった。だが、視線だけでアイリが『余計な事をするな!』と訴えてくる。
「さっき、お昼を食べたばかりなので、軽いものでいいかな、と思っていまして……」
 そのため、カナは素知らぬ振りをするしかない。慌ててフォークを持って、コーンサラダに手をつけ始めた。

 会食は続く。
 他愛もない話がえんえんと続いた。アイリは経済について、君楊が政治について話す。王という立場はお飾りではないらしく、そういう話題にもアキラは嬉々として答えていた。これだけ出来た人物がギャグひとつで変貌するなんて。これも教育の賜物なのだろうか。疑問に思いながら肉を口の中に運ぶ。 人間はなんだかんだで現金なもので、いざ口に食べ物を運べば食欲には逆らう事が出来なかった。
 ガシャアアアアアアアン
 突然、ガラスの破片が部屋の中に飛び散った。

 

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