EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [15]

第2章 出会いと依頼 [15]

 カナ達三人は、途中で交代した別の家来とおぼしき人物になんだか豪勢な部屋に連れていかれた。 先程の看守とアイリはなにかを喋っていたらしかったが、それも途中で、『わたしはここからは諸事情により御同行出来ません』という律儀な台詞と共に話も終点を迎えたようであった。
 牢屋を抜けてしばらくは同じ素材で作られた固く暗い地下室が続いていたが、ある地点から空気が一気に透き通ったものになったかと思うと、そこからは『城の一部』(もっとも、牢屋もそうであるのだが)と思わせるような空間に出た。 ギャグで敷き詰められた赤い絨毯も敷かれている。
 看守はそこで別の者と交代した。役割が決まっているのであろう。交代した家来はどこかの僧侶のような格好をしており、なかなかの年輩のようだ。
「そなたたちは例の儀式を通過されたようじゃな。まったく、今の王もあそこまで無茶を言う人ではなかったのだがな……」
 顎にもっさりと付属した立派な白髭を撫でて、その老人が言う。
「さっきあの看守ともそんなことを話していたんだが、一体どういうことだ?なんかあったのか?」
 アイリが尋ねる。老人は立ち止まり天井を見上げた。天井には白地に茶色の文字が書かれており、ところどころに大きなシャンデリアが設置されていた。
「……もう、かなり昔の事じゃよ。全ては、『今更』なのだ。そう、今更」
 彼は寂しそうに呟くだけでそれ以上は何も話してくれなかった。 話が途切れてしまったため、アイリが残念そうに後を追う。カナは俯いたまま何やら沈みこんでいた。
「ここじゃよ」
 老人は大きな茶色の扉の前で止まると、体を回転させてカナ達に向かって言った。アイリが手をかざし、君楊が軽く会釈する。カナはまだ足しか動いていない。
「カナ、入るぞ」
 鍵は掛かっていなかった。 カナがアイリに引きずられるようにして部屋に押し込められる。老人はそのまま廊下に立ち止まったまま、複雑そうな笑みを浮かべているだけだった。アイリがその老人の顔を見て、頷く。続いてカナの額をぺちりと叩いた。
「なあカナ。どうしてそんなにお前が気にするんだ?リョウに関しては自業自得だし、アンタに害だってないんだし。どうしてそんなに気にするんだ?」
「そんな言い方、ひどいよ」
 投げかけられた台詞に、カナがようやく顔を上げた。アイリにつかみかかる姿勢になって、捲し立てる。
「そりゃあたしにはとばっちりだってないし、リョウの自業自得だよ。でも……心配になるじゃない。公開処刑だって言われてたのよ」
「じゃあもしアイツが処刑されたら、アンタはどうするんだ?敵討ちとかするのか?そしたら今よりもっと大事になるぜ」
「……」
「まぁ、アタシだって、あの男の存在を忘れたわけじゃない。なんとか、なるだろ」
「アイリ……」
「今ここでオマエさんが暗い顔をすると王の機嫌を損ねることだってある。アイツのことを思うなら、今は気にするな。わかったな」
「なんとかなるかな」
「ああ。アイツにいなくなられたらアタシも困る」
 アイリにとってのリョウは、彼が持っているとされる『魔術力』が重要だった。君楊調べで人並みやや上くらいの魔術力を秘めているらしく、実に興味深い対象である。話の流れからすると、彼は魔術力こそあれど使用に至ってないらしく(最も、これは珍しくはなく、遺伝で魔術力が流れてくるが本人がそれを学んでいないというケースにあたっていた)、そんなの勿体ないからアタシが有効利用するのが一番、と考えていた。本人自身の事は二の次だったけれど、このまま放っておくには惜しい存在には違いない。
 とはいえどうにかなるだろう、という見解は嘘をついている訳ではなかったが、その保証も無かった。ただ言えるのは、カナがここでリョウのことをアキラに話されてはマイナスにはなるにせよプラスになることはないという確信だけはあった。
 憂いを含んだ(もちろん演技なのだが)アイリの様子に何か感じたものがあったのか、カナが顔をはっとさせて、一歩退く。
「アイリがそこまで思ってるなんて思わなかった。取り乱してごめんなさい……」
「いや別に気にしちゃいないさ」
 そのままアイリは君楊の元へ歩いていった。

 

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