EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [14]

第2章 出会いと依頼 [14]

 アキラが輝いている。腕をぶおっと振り、マントが呼応してなびいた。風もないのに不思議なものだ。きっと見る人が見れば彼の背後には鳥でも飛んでいたり花でも咲いていたに違いない。ぱっぱらー、とファンファーレでも聞こえてきそうである。
 カナは満足そうな顔でうんうん、と頷いている。腕を組んで口をにやけさせるカナの後ろでは、なんとなくどういう状況なのかをおおまかに把握したリョウの姿が見えた。
「では、最後はお主の番じゃな」
 そんな状況にもかかわらず、アキラはリョウの存在を忘れてはいなかった。幸いにもカナのおかげで彼の表情も声も非常に穏やかだ。君楊はそこで自分がリョウから集中を外していたことに気付いた。すぐさまアイリを伺うが、彼女もそれどころではないらしく、特に君楊をとがめたりしようとするそぶりはなかった。もしかしたら、アキラの機嫌が良いためになんとかなるかもしれない。君楊はそう考えると、胸を撫でて胸中でほっと安堵した。
 だが、アイリが考えているのは君楊とは異なっていた。 顔には出していないが、明らかに失態を噛みしめていた。
 アイリは数年間も一人(正確には君楊もいるので一人と一体)で、世間にもまれて旅していた。そのため彼女は、自然と『人を見抜く』能力を身につけており、今回も直感的に『リョウは間違いなくこんなことに参加しない』ということを悟っていたのだ。
 最もそれは一個人の予想にしかすぎないし、思っていたのと違う結果を生み出すことだって多くある。食堂でのカナの魔力の発生なんかもイレギュラーな場合のひとつであった。それゆえに今回ばかりは自分の予想が外れる事を切に願っていた。
「……は?何言ってんのオッサン」
 眉間に小じわを寄せて、リョウはぽつりと言った。一気に場が凍り付く。先ほどとは違う、重い沈黙だ。
『終わったな……』
 ふぅ、とアイリはため息をついた。当たってほしいときに予想は外れ、どうしても外れてほしいときに限って完全に予想通りになるものでもある。頭を抱えたかったが、そんなことをしては自分がとばっちりを食らうのではとわずかな時間で考え、必死で感情をコントロールした。
 重苦しい牢屋の床が本来の色合い以上にどんよりとして見える。事の大変さに気付いた君楊は顔を真っ青にして、それとは対照的にアキラは真っ赤な顔で怒鳴り始めた。
「な、なんという無礼者だ!許さんぞ!お主だけはこのまま牢にいるのだ!明日、公開処刑を行ってやる!」
 たかがギャグひとつでこうである。この国の行政は一体どんな風に行われているのだろう。
 あははー、楽しいなぁ、君楊は現状とはまったく関係ないことを考えることで感情をセーブしていた。メンテナンスが必要だ。人形でも現実逃避という感情があるらしい。 アイリはとりあえず自分に被害が無さそうだということを悟り、最悪の事態を免れたことにだけ安心している。
 アキラは看守に何か耳打ちすると、そのまま身を翻して階段を上っていった。コンクリートの冷たい床の足音は、この小さな牢屋にとても響いた。
「出ろ……お前以外はな。まったく……お気の毒なことだよ」
 少しの同情を含み、看守は牢をあけた。
「ちょっと、アンタ……」
 真っ先に出たアイリが、看守の衣服を引っ張る。そのまま何かを喋っていたようだが、カナの耳には入ってこなかった。
「リョウ……」
 牢屋の中ではリョウが壁にもたれて座っている。こちらの方を見向きもしない。 カナの声は、牢屋を閉める金属音にかき消されてしまった。
 リョウは何も言わなかった。

 

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