EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [13]

第2章 出会いと依頼 [13]

 君楊はまだ顔を真っ赤にさせて……そのうち熱暴走でも起こすんじゃないかというくらいの赤さで、しかも動かないまま固まっている。すでに思考回路がフリーズしているのかもしれない。オペレーティングシステムを直ぐにでも確認したかったが、次に指名されたのはアイリである。そういう訳にもいかない。
 なるほどね、とアイリが唇だけで呟いた。カナは次に自分が来る事を予想しているのか、何やら一人であーでもないこーでもないと頭を抱えているようだった。
「王様、申し訳ないんだけどアタシにはあんたを満足させられるだけのギャグがどうしても思い付かないんだ。都合のいい事だってわかってる。でも、いつか必ずあんたを満足させるギャグを言えるようになってくるから、今回の所はアタシをここから出してくれないか?」
 声は営業スマイルモードだった。しかし瞳だけは冒険者のそれで、アキラをじっとみつめている。
「むう……」
 君楊が吃驚(びっくり)しているのか、それとも普段とのギャップに違和感以上のモノを覚えているのか、なんにせよ普通でない表情を作る。先程の熱暴走はどうやら直ったらしい。看守は口をぱくぱくさせている。読み取れる言葉は『あんた何言ってるんだ!』が一番適していそうだ。カナはまだ何かに集中しているのか会話が聞こえていないようで、リョウにいたっては相変わらず夢の世界から帰ってきていない。自分の番がきたことで、君楊の集中からも放たれてしまっている。
 アキラは数秒考えたようだった。が面白そうに唇の端をあげると、その蓄えた髭を手でかるく撫でた。
「ほう、それは楽しみだな。例外はいつも作らないが、今回は特別だ。お主の誠意、とくと受け止めるとしよう」
「ありがとうございます」
 声と共に深くお辞儀する。この状態だとちょうど、君楊と顔を向かい合わせる形になった。少し舌を出してにっこり笑ったアイリを見て、君楊は彼女らしいなあとしみじみ実感する。
「じゃあ、次はあたしの番ね」
 王に指名される前に、突如としてカナが一歩踏み出してきた。びし、っと人差し指を突き出した彼女はなんだか誇らしげに見えた。
「いくわよ!」
 王の返事も無いままに、腕を頭上に上げて言葉を発する。
「ジャマイカの邪魔な烏賊、ドイツ人はどいつ、オランダには人がおらんだー、カレーはかれぇっ!」
 最後の方では息をふうっと吐き出し、しかも勝ち誇ったように汗を脱ぐうその姿はなんとも言えず。 しかし本で読んだだけの、異世界に存在する国の名前などを使用している辺り、変なところで博識さを感じさせていた。もっとも誰もそんなことにつっこみはしなかった。
『くだらない………』
 胸中か、はたまた声にだしていたのか。とにかく、この静寂の中でも聞き取れないほどの小さな声で、アイリと君楊がため息をついた。 その言葉に反応したのかなんとも言いがたい空気を感じたのか、それともカナの大声が原因かはわからないが、ゆっくりとリョウが体を起こしている。状況を全く理解出来ない彼は、まだぼーっとする頭を片手で支え、とりあえず事の成りゆきを伺う事にした。何かが起きていることだけはなんとなくわかる。
 そして、肝心のアキラは、
「す、すばらしい!」
 泣いていた。
 隣に立つ看守はアイリの反応とほぼ同じで、間抜けなことに口をあんぐりと開いている。何かを言っておけというのは彼の台詞だったが、まさかこんなことになるとは思ってなかったのだろう。彼の話し振りでは、この儀式とやらに進んで発言するものはいなかったに違いない。
「さすがだ、カナ・ロザリオ嬢。パーンが見込んだだけの事はある!」
「でっしょ?」
 なぜアキラが他国のことを知っているのだろうか。普通であれば疑問に感じると思われる事を、カナはあっさりと聞き流す。ぼうっとしていたアイリがその言葉に反応して我を取り戻した。
『やっぱ、さっきからなんかおかしい』
「私は……こんな風にいきいきとギャグを言う姿を、久々に見た。なんとも言えない。当然、合格じゃ!」

 

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