EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [12]

第2章 出会いと依頼 [12]

 どうも、それはこの国の恒例行事であるらしい。
 あるときは祭りのメイン、あるときは他国からやってきた使者を迎えるときに、そしてまたあるときは裁判の判決に。 大事と思われる二者一択の行いにはこれでもかというくらい『王様をギャグで笑わせる』という儀式が行われる。別名『ギャグ国』とも呼ばれる事がある、ここ『笑国』では有名なことだった。 兵士の中から隊長をきめるテストまでもがこの『儀式』を行うくらい、この行事は神聖なものとして取扱われているらしい。
 先程絨毯の模様を見た際に、カナ達はここが魔法国ではない事を把握した。同時に、そういう国の背景があるため、ここが笑国であるということも理解していた。だがしかし、こんな突拍子の無い出来事に遭遇するとはさすがに予想出来ず、事態を理解するのに少々時間を要することになってしまった。
「つまり、そういうことなんですよ。王は代々ギャグを受け継いでおられます。……ここだけの話、ああ言っていますが、単調でもオーソドックスでも貴女達が楽しく言えば、それでどうにかなりますから」
 というより時間を要してもこの状況が理解できなかったため、結局看守に説明してもらっていた。彼もこの儀式を受けたのだろう。はらはらと涙を流すようにしつつ、最後の方だけは小さな声で、テストに対するアドバイスをする。
「それではまずそこの青いの。お主はどうだ?」
「えっ!」
 初めに指差されたのは君楊だった。彼らしくもない驚きの声が漏れる。 看守はそそくさと王の隣に戻り、君楊に向かって小さく頷いた。アキラからはその動きは死角となって見えない。 じりじりと、沈黙が襲ってくる。かなり短い時間のはずであるが、君楊にとってはじゅうぶんすぎるほど長い時間に感じられた。
「ふ……ふとんが、ふっとんだ」
 そうして、小さい可愛い声で言い、彼は顔を真っ赤にした。人間じみたその行動を見てまさか彼が人形であるなどとは誰もわからないだろう。
「主人命人形(マスタードール)って、感情の起伏もあるの?」
「そうみたいだなー。アタシは君楊をあんま人形として見ないから気にしなかったけど。そういうコントロールも制御できるようになってるってことだ」
 傍らで、カナとアイリがぼそぼそと呟きあっている。
 実は君楊は、主人命人形(マスタードール)と呼ばれる『意志を持つ人形』なのだ。 通常の使い人形であれば、動くのに使い手が四六時中ついていなくてはならず、その動力も使い手の能力を用いている。アイリと君楊の場合でも四六時中一緒にいるし、君楊がアイリの能力を糧にして動いているのも同じであるが、彼は自分で考える意志を持っており、それ故に人間めいた行動を取ることが出来ていたのだ。 『魔術』と並ぶ、この世界で発達した『機械技術』。君楊はその機械技術の最高の発明品なのである。
 だから先程、ワープの術をプログラムするのに困難な『特別な人形』と自称していたのだった。この世にたった二体しか存在しない彼を分解・製造することはアイリでは無理なのである。
 そんな意志を持つ人形だからこそ、恥じらいの感情も持ち合わせていたのだろう。 どのような回路でそれが成立しているかは分からないが、彼の頬が赤くなっているのも、そのプログラムによるものに違いない。
「ふーむ。オリジナリティにかけるが、よくぞ自分を表現した。よろしい、お主は合格じゃ。じゃあ、次は……そこのポニーテールのお嬢さん、君にしようか」
 看守が君楊に向けてウィンクする。なるほど、この程度で済むらしい。

 

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