EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [10]

第2章 出会いと依頼 [10]

 相変わらず薄暗いが、太陽の日差しが時々差し込んでいるのを見れば、さほど時間が経っている訳でもなさそうだ。だがやることの無いここでは時間の流れは非常にゆっくりとしており、四人は暇を持て余している。
 リョウは結局あのまま夢の世界に突入したし、カナも魔術力の放出で体力を消耗しているのであろう、鉄格子から離れて、今度は壁にもたれていた。ほっとしたのか、軽く寝息をたてている。
『あんな精巧な杖に与えられた術の発動すら失敗しちまう。その程度の魔術力しかないんだろう、こいつ。じゃあ……あのとき見せたあの魔術力はなんだっていうんだ?』 そんな彼女を見ながら、アイリはずっと思考にふけっていた。 四季国の主(あるじ)からもらったという、龍の彫り込みのついた木の棒。術連盟が作成する既製品の中では間違いなくトップクラスの品質である。成功率だって格段に高いと言っても違いない。魔術力は自分にもないとアイリは思っていたが、そんな彼女でさえ、あの杖であれば正確な位置を特定して移動することだって出来るはずだと強く思える。
 カナが世間知らずで、魔法国を上手くイメージできなかったからかもしれないとも考えた。だが、それではこの商品が成り立たなくなってしまう。料理屋や他にもいろんなものを営んでいたアイリからすれば、商品品質からして移動したことないから失敗しました、なんてはっきりいって論外だと思っていた。
『やはり、こいつには魔術力のカケラもない。だからといって移動に失敗するなんて……』
 カナが移動に失敗したことも疑問であし、自分の小料理屋を一瞬で破壊したあの能力にも疑問だった。考えれば考えるほど答えが出てこない。 首の後ろをぽりぽりとかいて、腑に落ちない思いにかられる。
「二人、ですね」
「ん?」
 彼女の使い人形が呟いた。 良いタイミングである、それまで考えていたことを一層させ、アイリがそれに興味を示した。
「どうやらあの見張りは後者の選択をしたようですよ」
 それだけでアイリは君楊が何を悟ったのかを感じた。あぐらを解いて立ち上がり、カナの肩を揺さぶる。 ほぇ、とカナがつぶやく頃には、鉄格子がちょうど縞模様となり、遠くの方に現れた人影をうっすらと映し始めていた。そうして影の本体が現れる。始めに姿を見せたのは例の見張りだった。
 先程とはうって変わって(というか本来はこの姿なのだろう)背筋をピンとさせた姿勢で歩いてくる。 彼が少し左に寄った。立ち止まり、体を九十度回転、そのまま右手で敬礼の姿勢をとる。 その後ろから現れた人物、つまり先程君楊の言っていた「二人目」がカナ達の視界にしっかりと捉えられる距離に来る。
「あなたが、この国の王サマ……?」
 まさか本当に連れて来るとは思っていなかったのだろう。カナがぽかんと、声をもらした。
「うむ。私がこの笑国が主、アキラである。そうか、君が威勢のいいお嬢さんか」
 現れた男は右手を顎に添え、言った。 おそらくパーン王と年齢は変わらないだろう。彼とは違い、ふさふさの黒髪がつんつんに固められている。 服装は童話から切り出したような王様風の格好で、彼が王だと知らない人も一目で職業を判断できるだろうものだった。王冠の代わりにゴールドのサークレットをつけており、サファイアの大きな宝石が装飾品に選ばれていた。 特徴的なのは絨毯と同じ赤色のマントで、同様に細かい文様が刻まれている。このデザインもおそらく絨毯と同系統のものだろう。
 彼は何かを評価するように上から下までカナを見て、その視線を隣のアイリに移した。 同様に観察し、続いて君楊の番が来る。
「うーむ。……ん?」
 その君楊の観察を遮って注目されたのは、彼の後ろに居るリョウだった。王の眉毛がぴくりと動いている。それをアイリは見逃さなかった。
『やば』
 嫌な予感を本能的に悟ったアイリが大げさなアクションをとる。
「それで、王様はどういった目的でここへいらしたんですか?」
 普段より高いトーンによる発言に驚いたのはカナだった。ぎょっとして、王から目を離さなかった顔をすぐさまアイリに向ける。 アイリはにこやかな笑顔で手のひらを広げていた。はっきりいって、見たことがない。
『えええ、アイリ?その顔と声何?気持ち悪!』
 ずずず、とアイリの背中を過ぎて、君楊の隣へと移動する。
「……君楊。何、今のアイリの声」
「営業用ボイスですよ。御主人様はこう見えても礼儀だけはきちっとしてまして。あと、長いものには巻かれろと言う考えもあります。御主人様的行動ですね。でも普段の姿を知ってると正直気持ち悪いですよねー」
「ふうん。確かに違和感があって鳥肌が」
 右腕を掲げれば、ぶつぶつとしたものが腕一面に現れていた。 そのひそひそ声はしっかりとアイリの耳には届いており、
『後で覚えてろ……』
 しっかりと刻み込まれていた。それでも笑顔を崩さないところは、世の中の接客業を営む人たちに全くもって見習ってもらいたい。 王は顎を少し上げ、無精髭を撫でた。

 

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