EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [07]

第2章 出会いと依頼 [07]

「うーん、思い出したらやっぱ私が悪かったのかしら」
 現実に戻されたカナが、ふと一人ごちた。
「そりゃコントロールが悪かったんだろうなって思うのよ。でもさー、魔術力なんてずっと無縁の存在だったのよ。あたしって基本的に肉体派なのにー。親もそれを知ってたから、剣術道場に通わせてたんだしー」
「そういえば、お前らは旅をしていたんだろう?一体今までどうやって移動してたんだ?君楊は、ワープの術は使えないのか?」
「僕はワープの術は使えません。僕が使うことの出来る術は限られているのですよ。学習プログラムに含まれていなかったようです。動き始めたこの状態から学ぶ事も出来なくはないですが、一旦分解とかしないといけないのでやってないんですよ。御主人様は通常の人形なら制作・改造可能ですけど、僕みたいなのは特別です。さすがに専門外になってしまいます」
「だから、アタシらはワープの杖を買って使ってた。もっともあんまり国家間の移動はしてないぜ。楽園国と四季国は長期間滞在していたけどな。そういうあんたこそどうしてたんだ。聞いたとこによるとアンタも旅の最中だったんだろ?」
「モグリの術使いに頼んで移動させてもらってた。俺は貴族国と四季国の一回だけ移動したっきりだけどな」
 モグリの術使いとは、熟練して得た術の腕を隠れて売り物にしている、そんな人達のことである。
 ワープの術は移動系の上級術に位置するため、使用するにはそれなりの熟練を必要とする。 だが、その熟練度とは対照的にこの世界では至極欠かせないものであった。職業によってはライフラインとして活用している。たとえば、商人なんかはそうである。
 商人たちの多くは辺りに転がっている木の棒などを拾い、術連盟でワープの術を有料で与えてもらうというのが一般的であった。先述の通り、術を埋め込む媒体は何でも良い。この手段をとれば、市販の既製品を購入するよりも安く済むのである。ただし、実際の所純度が落ちてしまうという事実もあった。 石ころでも殆ど大差はないと言ったが、術連盟で作成している既製品はそれ相応の清めを行っているため成功率が上がるという。(どのくらいの差があるのかは分からないが、カナのように高価そうなものであっても今回のようになるケースもあるため、一概にはいえないのだが)
 このようにして商人達は節約するのだが、それでなくてもはっきり言って高い。 商人たちがかろうじてその手段がとれるわけで、そうでない人たちからすればやはり高いのである。 術連盟もケチだな無償奉仕しろよという気持ちもなきにしもあらずだが、彼らにも生活があるのであまり強いことは言えない。実際、かの大和家も術連盟がこのようにしてお金を取ることは認めている。
 そうなのだ。本当であれば神聖なる術により商売をする事は禁じられているのである。連盟に関してはちゃんと大和家により清めの儀式を受けることでその行為を許されているに過ぎなかった。
 さて、ここで『モグリ術使い』である。
 先程述べた通り、正規の契約を果たした術者は、大和家に清められている。実はこれにも定期的な料金が発生しており、ワープの術の料金が高価なのはそれも要因のひとつだった。
 これに対して、モグリの術使いというのは術を使うのがモグリなのではなく、『未契約にも関わらず術を生業にしている者』のことを指していた。 彼らは正規の術者より格段に安い料金で、しかも媒体に埋め込むのではなくワープの術を唱えてくれる。 これにより物的証拠も残らないし、転送を受けた者の体に何かが起こるわけでもない。しかも素人が術を発動させるわけではないため、失敗の可能性もほとんどない。 なぜならば、術者の能力が低いというわけではないからだ。モグリの術使いの大半は、単純に面倒くさい手続きを嫌う者ばかりで、実力だけ見たら正規の者たちとさほど変わらないのである。
「へー、あんた、裏社会の人だったんだ」
「そういうわけじゃないんだけどな……」
「……ううう」
 完全に無視されたカナが拗ねて、床に『の』の字を書き始めた。 実にシュール。暗い部屋が一層暗く見える。
「あー、悪かった悪かった。からかいすぎた。別に怒ってないから、こっち来な」
 さすがにこれはやりすぎと思ったのか、アイリが体をひねってカナに手招きをした。 位置的にカナから近いのは、アイリとリョウの間。 無視されなかったのが嬉しかったのだろう。一人なら裕に座れそうなその場所に行こうと四つん這い状態でカナが駆けてくる。
「オレは怒ってるが」
 が、リョウのその一言で一気に方向転換。カナはアイリと君楊の間にそそくさ、と入り込んだ。 ちょこん、と両膝を立てて所謂「お山座り」のポーズをとる。カナが履いているのはスカートだが、黒のスパッツを併用しているのでそこら辺は問題無い。本人は雨に濡れた子犬のようにぶるぶると震えていたがまあそれも大きな問題ではない。

 

PREV / TOP / NEXT

 

▲Jump to Top

▼Return to Story