EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [05]

第2章 出会いと依頼 [05]

 額に、冷たい金属が触れたような気がした。
「ん……」
 いつの間にか意識を失っていたらしい。瞑っていた目をゆっくりと開ける。 なんだか柔らかい感触を頬に感じたが、それが何であるかを確かめる前に、視界に入った光景に思考の優先権を奪われた。
「あれ?アイリ?」
「カナさん、意識を失ったようですよ」
 状況を理解する前に言葉を挟んだのは君楊だ。言われたカナの頭はまだ正常に働いていない。 唯一ハッキリとし始めた視覚は先程の人物、つまりアイリの姿をはっきりと捕らえただけだった。
「まあ、もともと魔力の無い人間のハズだからな……。意識も失うだろう」
「でも、この場はまずいんじゃ無いですか、いくらなんでも」
 雨上がりの路上の染みがゆっくり乾いていくのと同じように、カナの脳がクリアになってゆく。 だが、事態の把握には至っていない。 少なくとも、自分の右に重力がかかっているらしいこと、つまり自分は横たわっていると言うこと、それが何故なのか。加えて、空気が冷たいここは何処なのか……。すくなくとも何らかの屋内であるということだけは分かったが、それらの疑問を解消するにはまだいろいろなものが不足している。 「いつまでそうしている気だ……」
 思考のスパイラルから抜け出すきっかけを与えたのは、頭上から聞こえたそんな言葉だった。 横になっていたらしい頭を少しだけ回転させると、不機嫌そうな茶髪の青年を見ることが出来た。
「あれ?リョウ?」
「少し力尽きてしまったため意識を一瞬失っていたようですね。床に頭を直接置くというのはあまり良くないと思いまして」
 先程と同様に答えたのは君楊だった。 茶道の君も驚きの美しい姿勢で正座しており、そろえていた手のうち右腕をカナに向けて指した。正確にはカナではなく、示していたのは起きあがったカナのもう少し奥。
 そこにはリョウの胡座をかいた脚があった。脚もとい彼とカナの距離はあって無いようなもので、床についた右腕はひねればすぐに彼の服に触れる事が出来る。君楊とは対照的に、背骨を曲げているため、首から提げられたペンダントが彼の太ももと触れんばかりの距離を保っていた。 先程カナの額に触れた金属は、おそらくそのシルバーアクセサリーだったのだろう。それが触れるくらいに顔が離れているわけではなかった。間近に迫る鋭利な瞳、男性の割に長い睫。色素の薄い肌に、針のような髪の毛。そしてへの字に曲げた、薄い色の唇……。
 慌てて、カナは飛び起きた。先程の柔らかい感触は間違いなく彼の脚だった。ぼさぼさになっている自分の金髪を手櫛で適当に整えれば、皮膚が熱くなっているのを感じることができる。なんとか話をそらそうとし、改めて誰とも無く聞いた。
「ここ、どこ?」
 それは至極単純で現在最も重要な質問であったと思う。 四人は、赤色の絨毯の上にいた。赤色といっても地が赤いだけであって、白の曲線により模様が描かれている。趣味が良いのだか悪いのだかよくわからない怪しい模様だ。 そのまま視線をあげれば、壁には燭台と高価そうな銅像なんかも置かれている。
「高価なもんばかり……城っぽい感じだな」
 アイリが周囲を観察しながら答える。何故か小声だった。
「城?じゃあ魔法国に無事ついたのね。良かったあ」
「良くもないと思うよ、カナ」
「どうして?アイリ」
「この状況です。どう考えても不法侵入でしょう」
 答えたのは彼女ではなく君楊だった。左手でブルーの髪の毛を少しかきあげ、耳に手を当てる仕種をする。その先にはずっと奥まで伸びた絨毯が見える。
「音が、聞こえます。人の足音のようです。一、二……多いですね」
 人ではなく、人より優れた聴力を持つ彼がそう言う。カナには彼の言う音を聞くことはできなかった。が、しばらくすれば人にも認識できる音量となってそれらが響いてくる。
 ガシャガシャ
「……聞き間違いじゃなければ、鎧が重なりあうような音もするな」
「リョウの発言に同意。でもできれば間違いを希望」
「無理ですね」
 諦めたように三人が息を吐く。

 

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