EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [04]

第2章 出会いと依頼 [04]

 視線の先では茶髪の青年が疲れたようにしゃがみ込んでいる。その様子たるもの、疲れたというよりはうんざりしているようにも見えた。
 青年もまた、アイリの料理屋に訪れた人であった。 彼が料理を小突いているところへたまたま訪れたカナ。そこで先程の破壊騒動があったのである。正確に言えば、その破壊騒動を起こすきっかけとなったのが彼なのだが、彼の意志は全く無関係であるのは事実であるし、ここで触れることでもないので言及はしないでおく。 重要なのは、カナも、アイリも、この青年も、出会って本当に間もないということだった。
 そんな間柄であるにもかかわらず、彼は今の今まで大人しく座っていた。
「せっかちねえ。せっかちな男はモテないって言うわよ。それにいいじゃない、リョウがここにいるのはタダってわけじゃないんだから!」
 カナが人さし指を立て、そのままそれを左右に振ってみせる。彼女の右手首には青色の腕輪が装着されていた。
 リョウと呼ばれた青年が、つり上がった碧色の瞳を不機嫌そうにして身体を起こす。その仕種はまるでナマケモノのようだった。立ち上がると、細身の体が目立った。身長はさほど高いわけではなさそうだが、無駄な肉が付いていない様子だけですらりとして見える。 服装は、若干センスが良いとは言えなかった。濃い茶色をしたズボンを左掌で叩いてくいっと顎を引き締める。
「ああ、その安そうな腕輪」
 そんな彼の仕草を見て、アイリが呟く。野生の動物が狩りを行うときのような、獲物を品定めするかの如き視線がリョウの手首に向けられた。
 リョウの左手首、ズボンとほぼ同色の柔らかそうな素材でできた手袋の上ではあったが、そこには白色の腕輪がはまっていた。よく見れば、カナがはめている青色のものと同じデザインである。アイリはそれを見て、『安そう』と言ったのだった。
「むー、安そうとか言わないでよー。大事なものだったんだからー」
 その発言に怒ったのはリョウではなく、カナだった。ぷんすか、と一昔前の漫画に出てくる人物のように、腰に手を当てて反論している。
 その腕輪こそ、リョウがここにいる理由だった。 何故かその腕輪に興味を示していた彼に、持ち主であるカナが「じゃああげる。代わりに一緒に旅行しよう」と言ったのである。 そんなことで釣られるリョウもリョウだが、一応それなりにわきまえているようでおとなしくしていた。
 アイリはそんな風に言うカナを子供でもあしらうかのようにして、手をひらひらさせるとさらりと言葉を投げる。
「あー、スマンスマン。でも、そこのにーちゃんが言うのも一理あるんじゃね。目的の魔法国へとっとと行かない?」
「……そーだけどっ」
 もっといろいろ話したかったのだろう。やや不満そうにカナが言うものの、何もないここにいてもしょうがないのは事実だ。やや渋りつつも、彼女は杖をひょいと掲げた。 高価そうな彫り込みのある杖と、ごく普通の田舎少女。どれだけ贔屓目にみてもアンバランスな光景であるが、アイリと君楊、リョウでさえもその姿から目を離さないでいる。
「いくわよ」
 呟き、唾をごくんと飲み込む。思考だけで行き先を描く。まだ行ったことのない未知の国。イメージはし難いが、それでも彼女は必死で思い描いた。
『魔法国へ』
 声に呼応して、緑色の円がカナの足下に描かれた。 直径五十センチほどのその円は、三人をまとめて転移させようとするカナの思いに反応したのかも知れない。大きさは広がり、続けて明るさが増した。 カナを中心としたその円は、重力に逆らった滝のように空中に向かって光を発する。
 シャアアアア
 効果音ならそんな風に表現出来ただろう。風が小さな隙間をすり抜けるような時に発生する音。そんな音が空間を駆けた。
 緑色のラインから無数の文字らしきものが円から浮かび上がる。それはカナ、リョウ、アイリ、君楊四人の姿をすっぽりと包み込んだ。
『文字らしき』と表現したのはそれが文字のような幾何学的模様に過ぎなかったからだ。 もしかしたら魔術に精通している者なら読めるかもしれない。そんな神秘さを感じさせるその模様がいっそう大きく湧き上がり輝く。瞬間、カナ達の姿は四季国から消えていた。

 

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