EACH COURAGE

Story - 2nd:An encounter and request [03]

第2章 出会いと依頼 [03]

 通常、王への謁見を許される者はそれなりの年齢に達していたり、業績をあげた者に限られている。 アイリの目には、カナがそんな業績をあげているようには映らなかったのだ。 おそらく彼女以外の人物に尋ねたとしても、一般常識のある者なら同様の反応をしたであろう。 年齢の方に至っては論外である。ただの十六、七歳程度にしかすぎない。
 更に不思議なのは、そんな彼女が一体何事で魔法国へ行くのだろうということだった。アイリはかなり怪しい視線を投げかけざるをえない。
『まてよ、あの魔術力の存在に王が気付いているのか?』
 元々アイリは料理屋を営んでいた。それは表の姿であり、本来はそこに来た客の魔術力を測定した後、その能力を少し奪うための営みであった。 その店に、数時間前カナが来たのである。
 非常に優秀なことに、アイリは料理をこなす腕もありながら、爆薬などの調合にも長けている。その上、自分以外の無生物に感情を吹き込み、操ることの出来る『人形使い』と呼ばれる特技を身につけていた。 このときも、自分の使い人形である君楊(くんやん)の協力を得て、何事もなく日常を終わる予定だった。
 だが、そこでイレギュラーが起きた。突如君楊が示した膨大な魔術力パラメータ。それは魔術力などかけらも感じられなかったカナから発されたものだったという。それに気付いても遅く、すぐに家一軒吹き飛ばすほどの衝撃波が起こってしまった。 不足の自体にそなえて用意しておいた防護膜も完全に役立たずであった。あっというまに屋外を破壊させたその能力。不思議なことに、あれ以来その魔術力はすっかり姿をみせない。あろうことか、カナ本人はそれを覚えていないという。アイリはその能力に興味を抱いた。アイリがカナと一緒にいる理由はまさにそれであった。
 だからもし王が既に彼女の秘めたるその能力に気付いていたとしたら……? 彼女が王への謁見を認められる理由もわからなくない。
 そんなアイリの心など、当然目の前の少女には伝わるはずはなかった。どうしてそんなことを聞くのだろうと疑問に思いながらも、近所のおばさんが世間話でもするように次の言葉を紡ぐ。
「っと、大和家(やまとけ)の、撫子(なでしこ)様に会いに」
「!」
 アイリの隣でじっとしていた使い人形の君楊までもが驚いた。
「……どうしたの二人とも」
 カナには二人が驚く理由がわからなかった。小首をかしげ、別の意味で悩み始める。
 いつのまにか杖は邪魔な布の拘束から逃れていた。比較的綺麗である路上に、布の一部が垂れ下がる。 瞳だけはまっすぐに、それでもきょとんとした様子でカナがアイリと君楊を見つめた。
「いやどうしたって……大和撫子様に会うことは栄誉も栄誉、とんでもなく一流ランクの行為ではないですか!」
「……そういうものなの?」
「なぜ事の重大さがわからないのですか!大和家は魔法国の君主にして、失国を覗く五つの国の頂点に立つ存在ですよ。その大和家の現女王である大和撫子様に会う、しかもそれが四季国の王直々の命令というなら尚更です。ねえ、御主人様!」
 人形は、まるで生命力を与えられたように人間的な動きを見せた。 ぐああああ、と両掌で顔面を覆い、そのまま宙を仰ぐ。 声は高く、人間で言えば声変わりをしていない年齢かもしれない。カナよりもうんと低い身長である。 紙の色は鮮やかなブルーで、赤色のメッシュがどこか中性的で美しい。はっきりいって、人形などと誰も気付かないだろう。
 その美しく知的な容貌からは非常にアンバランスなリアクションだった。 手をそのまま頭部に滑らす。癖毛とは無縁である青色の髪の毛をぐしゃぐしゃにした。ふと我に返り、同意を自分の主人に求めようと首ごと隣に曲げて、聞く。
「ん、ああ……」
 人形の主人、つまりアイリはアイリでなにやら考えごとをしていたらしい。あわてふためき、『カナの考えが理解できない!』と言っているにも等しい常識人形である君楊とは異なり、アイリは顎に手を当てて、うぬ、と一回頷いた。
「でも、あんたが大和撫子に会いに行くという目的で四季国を離れようとしているなら、アタシも野望に一歩近付くってもんだ。ますます同行する理由が出来た」
「野望?魔術力集めとは違うの?」
 意味深なアイリの発言にカナはますます困惑の色を深めた。
 アイリが料理屋で行っていたことはカナも知っていた。だが、先の発言はどうもそれを指しているようには思えなかったのだ。そもそも四季国で料理屋を営む前は転々としていたらしいし、もしかしたら野望とやらはその旅の目的に関係しているのかもしれない。
 にっ、と唇の端を釣り上げて笑うアイリにカナが問いかけたが、その返事を聞くことは無く、別の方から発せられた声に会話を遮断させられてしまった。
「どうでもいいが、出発はまだなのか?早くしてくれ……」
 三人の視線が、その言葉の主へと向けられた。

 

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