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Story - 1st:On a fine day of summer [27]

第1章 ある晴れた夏の日に [27]

「教えてやるよ。アタシは『あんたら』の魔術力を欲してる。欲するだけの魔術力が男の方からしか反応されなかったんだけど、なんだかあんたからも微弱だが反応があった。そんなわけだから、今からあんたの魔術力を少し貰うよ。大丈夫。別に生活に支障はないさ。いや、今まで無意識に頼っていた能力を奪うわけだから、ちょっと感覚が鈍るかもしれないけど」
 女の声と供に、君楊がカナに近付く。かざされる手。何かを唱えはじめようと、集中する表情。閉じられた柔らかな瞳。
 そこでカナは顔をあげた。気は失っていなかったらしい。
「何しようとするのよ!わけの分からない事言ってんじゃないわよ!あー、もう、頭に来た!」
 立つ事は出来なかったが、声だけは存分に発した。いつのまにか手を離れていた剣を再び掴んだ!
 白い腕輪が共鳴した。ただし、人には聞こえない周波数だ。
「!」
 君楊の、呪文を唱えるつぶやきが止まった。かざされていた手も動きがおかしくなり、震え始めた。
「……どうした、君楊」
「ご、御主人……様……」
 声も震えていた。君楊がこんなに怯えるのは珍しいのか、女自身も不思議そうな表情で彼を見やる。
「魔術力……魔術力が膨大に増幅しています。並の術者が持ちうるものじゃありません……」
 君楊がガタガタと、唇を震わせた。声が震えていた。かざしていた手は自分の頭を抱えて、青ざめた顔を覆っている。
 そして、一歩後ずさる。ちょうど女にもたれかかる形になる。
「この力を……僕は、制御出来ない!」
「君楊?」
 叫ぶと同時、カナの身体が床から離れた。 今度は先程のリョウとは違った。つま先が床からゆっくりと離れていく。
 君楊の震えはとまらない。女は何も感じることが出来ないのだ。カナが、いや、腕輪が出しているのは『人には聞こえない』音なのだから。
「ーーーーーーーーーー!」
 声にならない声。そのソプラノは確かにカナのものだった。女の耳にもそれは届いた。
 そうして今度は青い腕輪が共鳴した。それらがカツン、と音をたてた。傍らで気を失っているリョウの首から下がるペンダントの装飾部分が、どこかライトブルーを帯びたようにも感じた。

 

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