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Story - 1st:On a fine day of summer [24]

第1章 ある晴れた夏の日に [24]

「ときに、カナ、だっけか。そんなにこの男の為にムキになるとこを見ると、こいつの女か何かなのかい?」
 カナの動きが止まった。
「昨日会ったばかりよ。ここで会ったのもただの偶然」
「はーん、そう。じゃあ、あんたはホントにホントのお人好しなんだな」
「放っといてよっ!人が倒れてたらそりゃ心配もするでしょ!」
 情が高ぶっているのを、カナ自身深く感じていた。自分は短気で、勝ち気で、感情の赴くままに行動する質だと自覚している。おそらく体中でそれを表現しているに違いない、とも感じていた。
「何であたしには攻撃しないのよ!早くしなさいよ!」
「まあおちつけって。別にアタシはそのおにーさんの命を狙ったわけじゃないよ。ちゃんと脈も正常に動いてるって」
 言われてカナはリョウの体を凝視した。 仰向けになった彼の体。胸のあたりの布がゆっくりと上下運動をしている。服の構造上、かなり見づらかったが、そこは確かにしっかりと動いていた。思わずほっとして気を緩める。
「アタシが欲しかったのは、っと。これは言うことじゃないな」
「別に純潔とかそういうのではないですからね。誤解しないで下さい」
「君楊、お前は黙ってろ」
 今度こそ少し怒ったのか、女が拳をわなわなと震わせていた。
「やだなあ冗談ですよ。御主人様がそういう方面に興味ないのは知ってますから」
 けらけらと、君楊が笑う。腑に落ちない様子だったがそれどころではないと、改めて彼女はカナに向き直る。ちょうど二人の間には倒れた大きな植木鉢。
「……とにかく、それはあんたにはなかったから、攻撃しなかったの。さ、そこをはやくどきな。今の目当てはそのおにーさんなんだから」
 カナは知らず知らずのうちにリョウをかばうような位置にいたのだ。 きゅっ、と噛み締めたくちびる。両手で構えた剣。杖と鞘は先ほどの壁に立て掛けられたままだったが、眼前の二人は手が出せない位置のはずだ。気にする必要はない。正直、そんな余裕がない。それによく考えると、君楊とやらの術の前ではそれもあまり意味のないことかもしれなかったし、今は別のことに集中しなくてはいけないのだ。
「よくわからないけど、どけない!ダメ!いいかげんにしてよ!ああ〜、もう!」
 正直な話、カナは一体今何でこんな気持ちになって、こんな風に女と敵対しているかがわからなかった。 剣士としての分析からすると、状況はかなり悪い。ものすごいレベルの術者に、思いのまま術者に指示を与えられる司令官。これまでの行動から察すると、ただの司令官ではなく素早さも兼ね備えている。
 でも、一度会って、一度話して。そんな相手をこんな状態に追いやった目の前の人間を笑って許せるほど、自分だけ何もなかったかのようにその場を去ることなど、カナには出来なかったのだ。
『僕たちが剣術を学ぶのは、誰かを守る時がくるかもしれないからだよね』
 脳裏に、懐かしい声が蘇る。もう弱音は吐かない。
「せめて、何なのか教えてもらうわ!……たとえそれが実力行使になっても」
 何よりも、何もわからないままこんな騒動に巻き込まれたことに腹がたっていた。 カナのイラ立ちは、最高潮だったのだ。

 

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