EACH COURAGE

Story - 1st:On a fine day of summer [22]

第1章 ある晴れた夏の日に [22]

「なんだって?」
「あ、本当に驚きましたよ。やっぱり知ってたんですね」
「な、アタシの言った通りだろ〜」
「……なにそれ」
 四人それぞれがそう呟いた。ただ一人だけそれを理解できない発言者がいる。 当然それはカナだった。状況を忘れ、三人の視線が一気に集中する。
「何よ」
 さすがに視線に気まずさを覚えたのか、口を尖らせてカナが反論した。少しだけ頬が赤いのは、恥ずかしいと言う事の表れかもしれない。
「まあ、人形使いの存在すら知らなかったんだからなぁ」
 別の意味で冷や汗をたらしながら、リョウが漏らす。
「え、ええと、君楊(くんやん)」
 『君楊』というのが少年の名前なのだろうか。女がこほん、と息をついて口をついた言葉に少年が反応する。
「主人命人形(マスタードール)。技術者ミスター・ミウラの至高の発明品、この世でわずか二体だけ存在する『意志を持つ人形』のことです。僕はそのうちの一体なのですよ。だから、御主人様の媒介であるペンダントを掴まれても動けたのです。意志があるんですから。ついでに、術を使うのも僕です」
 術……。実際に生で初めて見た。正直、初めて発動する術を見たら感動すると思っていたのだが、今はしそれどころではない。
「意志があるなら、その媒介なんて必要無いんじゃないの?」
「いい質問ですね。確かに一見無くても構わないように思えますが、他に人形使いがいた時に、場合によっては引き込まれる可能性もあるわけですよ。『この人形は自分のだ』と思わせるための何かが、人形使いとの対峙には必要なわけです」
「あ、そっかー。今ここに人形使いはいないから、リョウにペンダントつかまれちゃくらいじゃなんともないって事なんだ」
 ぽん、と音を立ててカナの両手が重ねあわされる。剣は相変わらず抜き身のままで、無防備にも床に置かれていた。
 よく見ると、カナの斜め前方でリョウが背中をすこしねじらせてカナの方を見ていた。その表情は明らかに呆れているものだった。
 呆れていた、すなわちカナの方に意識が向けられていた。
「よくできました。はい、解説終了」
 その隙に、女は組んでいた右手を宙に伸ばした。 広げた手のひらは正面を向いている。開いた指先がそろえられ、内側に向かって勢いよく何かを掴む。
 握った手のひらは拳を形取った。 人さし指の第二間接が内側に向けられ、親指が触れた。 触れたことを確認し、そのまま元のように指先を開いた。

 

PREV / TOP / NEXT

 

▲Jump to Top

▼Return to Story