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Story - 1st:On a fine day of summer [21]

第1章 ある晴れた夏の日に [21]

「残念でした♪」
 女が体をカナたちの方に向けて、舌をちらっと出した。
「……動いてるじゃない!リョウ、話が違うわよ!」
「おかしい……そんなはずは……」
「はい、間違っていませんよ、リョウさん」
 驚きを顔にあらわしたまま呟くリョウに少年が返した。一度女と目をあわせ、頷きを確認してから、再び、少年が口をひらく。
「貴方の言っていた事に間違いはありません。御主人様は人形使いですし、僕はその人形です。でも、そうですね。先ほどの説明に点数をつけるとしたら、せいぜい六七点といったところでしょうか」
 植木鉢や、爆発でとんだ机のかけら等を無視しながら少年は言い続ける。じれったい物の態度にイライラしたのか、リョウが柄にもなくもがいた。カナはぼーっと、抜き身のままの剣を握っている。まだ状況が飲み込めない。カナの側に、逆さまになったパスタの皿が落ちていた。白色の液体が床にこぼれていた。
「勿体ぶらずに、早く続けろ」
「……と言っていますが、いかがしましょうか御主人様」
 少しだけ振り向く。その方向に立っている『御主人様』。それは紛れもない人形使いである女の事を指しているのだろう。リョウの反抗的な様子に感じたものはないようだったが、確認のつもりか、女に聞いているようだった。
 一瞬思うところがあったようだが、にや、と女は唇をつり上げた。 組んでいた右腕を動かし、ゆっくりと息を漏らした。
「いいだろ。あそこまで知っていたって事は、やっぱりこいつはただ者じゃないって事だ。おそらく、お前の事も『知識』としては知ってるだろうから……驚く顔が見たいしな」
 すなわち、『説明してやって、その反応を見たい』ということだろう。少年は軽く頭を下げ、言った。
「貴方の言う通り、人形使いは『媒介』、まあ装飾品が最もポピュラーですけどね、それを仲介として人形を操ります。ですから、それを先程のように第三者に奪われたりしてしまうと、人形は動かなくなるんですよね。普通は」
 やはりどこか勿体ぶった口調だった。次第に少年とリョウの距離が近付くが、互いにそれを気にしたそぶりはない。
「聞いた事ありませんか?主人命人形(マスタードール)、という存在を」
 マスタードール。少年はたしかにそう言った。

 

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